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ハッカー殲滅作戦(四十三)

 琴美は鼻が利く。昔から訓練されていたのだ。

 男ばかりの琴坂家に、二百四十年ぶりに誕生した女の子。それが琴美だった。

 遠縁の親戚まで集まって、『琴美誕生記念』の横断幕付きで撮った記念写真が、仏壇の上に飾られている。

 だから琴美は、親戚から『可愛い』とだけ、言われ続けて来た。お年玉は、それはもうウハウハだ。


 悪い男に引っ掛からないように、先代から、それはもうみっちりと仕込まれたものだ。

 曾祖父からは護身術。祖父からは国体。父からは九九。そして、母からは料理と薬物についての英才教育を受けた。

 お陰で、例え目薬が投入されたビールであっても、その商品名まで嗅ぎ分けることができる。もちろん、ビールの方だ。


 だから琴美は、弓原家で出された紅茶を飲み込まなかった。琴美の鼻がアルコール分を検知し、アラートをかき鳴らしたのだ。

 そして今、再び琴美の鼻がアルコール分を検知している。


 琴美はコーヒーカップをテーブルに置き、端へ退ける。その場で直ぐに立ち上がって、大尉のカップを覗き込む。椅子が固定されているので、変な立ち姿勢だが、それは問題ない。


「全部飲んじゃったんですか!」

 琴美はテーブルに手を突いて、勢い良く通路に飛び出した。そして大尉に駆け寄る。駄目だ、目が虚ろで生気がない。

 琴美に、考える時間は少ししかなかった。気が付けば、足元に白い煙が流れ込んで来ている。『ナニコレ?』と言う暇さえない。

 パッと琴美は動いた。椅子に置きっぱなしのバックから、ハンカチを取り出すと、コップの水を掛けて湿らせ、口を押さえる。


『何? 火事なの? いきなり?』

 そう思うだけで口にはしない。大尉は口を押さえている琴美を見て、相変わらずの表情だ。仮に『火事』であった場合、このまま大尉を放置しては、焼け死んでしまうではないか!


 琴美はハッと思い出した。同室の絵理が言っていたことを。

 バックからスマホを取り出し、動画サイトから検索をすると、ボリュームを最大にして大尉に向けたのだ。


『パッパパッパパッパパッパパッパパッパパァ~』

 起床ラッパだ。これで起きなかったら、もう知らない!

 するとどうだろう。大尉がパッと起き上がったではないか!

 足が引っ掛かっているのに気が付いて、よろけながらも通路に飛び出して来た。そして姿勢を正す。

 大尉は目を見張る。何だか、白い煙が腰の辺りまで来ているではないか。何が起きたのだ?


「井学さん! 火事みたいなのっ! 逃げまsyキャー」

 琴美がいきなり羽交い絞めにされて、叫び声をあげる。

 何やら琴美が鳴らした『起床ラッパ』で飛び起きたのは、大尉だけではなかったようだ。そりゃそうだろう。


「お父さん助けてぇ!」

 叫び声で父は来ない。琴美は『全員突入』の合図『ニイタカヤマノボレ』を、打電することが、遂にできなかった。

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