ハッカー殲滅作戦(四十)
「私の趣味ですか?」
何だか『取って付けた』ように始まった会話。琴美は何だろうと思って笑う。これではまるで『お見合い』ではないか。
「はい。何が好きですか?」
大尉は頷いて、更に聞いて来た。琴美は『やっぱりお見合いだぁ』と思いながら、それでも話を合わせることにする。
自分に興味を持って貰うことは、悪いことではない。
「お花が好きです」
琴美が小首を傾げながら答える。これなら問題ないだろう。
言われた大尉は、琴美の真っ直ぐな目を見て『しまったぁ』と思う。薔薇の花束でも、買って来れば。そんな思いだ。
後悔しても遅いのだが、いや今回、それは買わなくて良かった。
「薔薇とか、お好きですか?」
それでも大尉は聞いて見る。何なら帰りに買っても良い。
「薔薇も綺麗ですけど、ベゴニアが好きですね」
「ベゴニア?」
大尉は聞き返す。どうやら『ベゴニア』は知らないようだ。
「はいっ!」
琴美が笑顔で答えた。満面の笑み。話題としては申し分ない。
しかし大尉は焦る。知らない花で、どうやって話題を繋ぐべきか。趣味の話って、映画とか読書とか、そういうことでは?
「珍しいのは、ベゴニア・デレメンシス・ワーネッキーとかぁ」
「おっ? おぅ」
「あと、エラチオールとか、センパフローレンスも良いですよねぇ」
琴美の目はキラキラしているが、大尉にはサッパリだ。
「井学さんもお花、お好きですか?」
「えぇ。薔薇とかぁ。桜とかぁ」
「まぁ。男性で薔薇が好きなんて。オールドローズ? モダンローズ? それとも、イングリッシュローズ?」
大尉は固まった。何だこれ。練習と全然違うじゃないか。
「白い薔薇が好きですね」
咄嗟の答え。大尉は『パラシュート』を思い浮かべていた。すると琴美が嬉しそうになって、前のめりに来る。
「じゃぁ『ファビュラス!』『アウト・オブ・イエスターイヤー』『アンナプルナ』どれが好きですか? あぁ、意外にも『ロサ・ムルティフローラ・ワトソニアナ』が好きとか、ですか?」
凄い早口。ひとしきり言った後に水も飲まず、大尉を見つめる。
見つめられた大尉は、只ひたすらにまばたきを繰り返すばかり。
「まぁるい奴が好きですね。扱いは難しいんですけど」
大尉は『パラシュート』を思い浮かべながら答える。すると琴美が、更に嬉しそうになって、グッと顔を近付けて来る。
大尉は目を大きくした。それ以上来たら、胸元が見えてしまう。
「素敵! じゃぁ、アウト・オブ・イエスターイヤーで決まりっ!」
琴美が背もたれに戻りながら、右手をパチンとやっている。
「お待たせしました。ミートドリアンです」
多分ミートドリア。お盆から一つ持って、どっちのか聞いている。
大尉は『助かった』と思って、うっかり先に手をあげてしまった。




