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ハッカー殲滅作戦(三十八)

「こちらの席にどうぞ」

 無表情の店員が琴美に席を案内すると、さっさと行ってしまった。まるで、淡々と指令をこなすだけの機械のようだ。

 琴美は大尉の手を離し、勧められた席に座る。

 直ぐにテーブルの下を覗き込む。大丈夫。一瞥して監視カメラはないようだ。大尉の白いズボンが見えて、琴美は顔を上げた。


「どうしました? 何か落としましたか?」

 座ったばかりの大尉と目が合う。

「いいえ。大丈夫です」

 琴美は『監視カメラを探していた』とは言えない。それは、もう少し親しくなってから言うセリフだ。笑顔で切り抜ける。


「私、目が良いので探しますよ」

 大尉はテーブルの下を覗き込む。しかし、秒で戻って来た。顔が真っ赤になっている。それを帽子を脱いで隠した。

 膝上丈のミニスカートを目撃してしまった。

 琴美の白い太ももが暗がりに見え、それがキュッと引き締まる。小指と薬指でスカートの真ん中を押さえる仕草。こんなの想定もしていなければ、練習だってしていない。

「すいません」

 親切が仇となってしまった。帽子を少しだけ下にして、大尉の目が覗く。琴美は可笑しくて笑っていた。


「何か見えました?」

 悪戯っぽく言われて、大尉はここぞとばかりに帽子を振る。

「何も! 何も見えてません!」

 それを聞いた琴美が顎を引き、ちょっと疑り深い笑顔。そのまま上目遣いで大尉を覗き込む。


「勝負パンツ、見えました?」

 小首を傾げて大尉を指さす。その瞬間、店内の空気が変わって騒めき出す。琴美からは見えないが、ミートドリアンに突っ伏している男もいる。外れを引いたか? サングラスの掃除が大変そう。

 撮影用の車中で、録音しながらヘッドフォンを耳に当てていた楓は、下品な『ギャハハッ』声で笑っている。

 もちろん、直ぐに録音できたかを確認し、バックアップに保存する。明日、大学中に公開しよう。


 言われた大尉は、琴美の顔を見て暫しポカンとしていた。

 勝負パンツ。久しく聞いていなかった単語だ。大尉の気持ちは、あっという間に大空に飛び出して、雲を突き抜けた。翼端が光る。

 そして、操縦桿マイスティックを握り締め、バンクを切って太陽を背にした。後は急降下するだけ。正に、戦闘開始だ。


 戦闘機乗りはこだわりが強い。勝負パンツもその内の一つだ。

 初めて戦闘に参加して、無事に生きて帰って来たときのパンツ。それは『幸運のパンツ』だ。綺麗に洗濯して、大事にする。

 それに対し、初めて敵機を撃墜したときに履いていたパンツ。これが正真正銘の『勝負パンツ』だ。洗濯はしない。

 理由は、食事中に話すことではないので省略する。うん。


「俺も勝負パンツなんですよ!」

 でかい声。嬉しそうに大尉が告白すると、あちらこちらから『ガシャン』という音が聞こえてきた。店員も、お盆を落としている。

 まるで、全員盗聴でもしているかのように。

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