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ハッカー殲滅作戦(三十六)

 二人が歩き始めると、ポツリポツリと移動が始まる。

 先ずいなくなったのは、731部隊の事務員だ。お役御免とばかりに、ルミネの方に消えて行った。

 その次にいなくなったのは、やはり731部隊の手品師だ。無線で鳩の補充について確認し、撤収が決まったようだ。

 放った鳩はレース用。心配ない。今頃家に帰っているだろう。


「お昼は何処に行くんですか?」

 琴美が大尉の腕を、ちょっと引っ張りながら聞く。

 大尉は歩きながら周りを確認し、ちらっと琴美の方を見たが、長くは見ていられない。とても緊張していたからだ。


「昨日オープンした、イタリアンの店があるんですよ」

「素敵! そうしましょっ」

 大尉は、ずっと女性と歩く練習をしていた。いつも少佐と一緒にいると、まるで徒競走のようだったからだ。

 ゆっくりと歩く。それが大尉には出来なかった。


 それが、今日はどうだろう。琴美が腕にぶら下がっているので、ペース配分は完璧だ。右右左左くらいの気持ち。

 大尉はちらりと琴美を見た。正面を見ているが、ニコニコとご機嫌なのは明らかだ。頭が左右に揺れている。それは、歩いているから揺れているだけ、なのだろう。

 それでも大尉には『喜びの表現』として、大げさに映っている。

「シャイディリアって、お店なんです」

 大尉が言うと、琴美が噴き出しそうな笑顔になって、大尉を見る。


「そうなんですか?」

 満面の笑み。そんな笑顔で大尉を見つめたまま、首を傾げる。

 琴美の疑問はもっともだ。しかしその店名で合っている。何しろ大尉も昨日、準備を手伝ったし。

 それは、この日のために準備した言わば『舞台装置』である。


「ええ。ご存じ、でしたか? ミートドリアンがお勧めです」

 それを聞いた琴美の目が、大尉を見つめたままパッと大きくなった。口元が痙攣でもしているか。ピクピクしている。

 しかし、今の大尉にそんな細かい所は、目に入っていなかった。

 どうやら、凄く気に入って貰えたようだ。それは、大尉も昨日味見して『最高』と太鼓判を押したメニューである。


 大尉は横目に、歩行者用信号が点滅し始めたのが見えて、直ぐに端に寄り立ち止まった。先に行きたい人は行かせておけ。

 大尉は、このときとばかりに、琴美を見つめていたかった。


「美味しそう! 凄く楽しみっ」

 大尉の方を向いて、しっかりと笑顔を魅せた琴美は、まだ大尉が見つめているのに前を向く。綺麗な天使の輪が良く見える。


 大尉は少しだけガッカリしていた。もっと何か話したい。話せば琴美は、こっちを向いてくれる。こんな傍で眺める機会なんて。

 しかし、何を話していいか判らない。練習の成果は全部飛んだ。

 悲しいが、腕を組んで歩いている。それだけで良いではないか。話しをしたいなんて、贅沢な悩みだ。落ち着こう。深呼吸。うん。

 いつから自分は、そんな贅沢を求めるようになったのだろう。


 前を向いた大尉の腕に、琴美の胸の感触が伝わって来た。

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