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ハッカー殲滅作戦(三十五)

 琴美が振り返ったとき、アルタ前広場の空気が変わった。

 そのとき井学大尉は白い軍服を着ていたが、太陽の日差しが反射して琴美の姿を照らと、琴美が輝き始める。

 白い鳩を目で追っていたからか、少し上を見ていた琴美が顎を引きながら振り返ると、髪が波打って琴美を追い掛け始めた。


 琴美は、立ったままの大尉に正対するのは初めてだ。振り返った先にあったのは、大尉の第二ボタン。

『意外と背が高いのね。十二センチのヒールなのに』

 そう思っている所に、琴美の黒髪が肩から前に流れ着く。それは正面を向いた琴美の首から顎にかけて、絡みついて揺れている。

 それは、初心な大尉には刺激が強かった。直ぐに脈拍が上がる。


 ハッとした次の瞬間、井学大尉の目に飛び込んで来たのは、上目遣いの琴美の瞳。二重まぶたに長いまつ毛。その先で潤んだ瞳は、幾つものキャッチアイを瞬かせながら揺れている。

 下に降ろしていた右手をパッと持ち上げるのが見えて、大尉は一瞬身構えた。しかし、そんな必要はなかったと直ぐに判る。

 琴美が手を伸ばしたのは首筋の辺り。胸に掛った髪をまとめて後ろに送ろうとしただけだ。


 一度正面を向いた琴美の顔が、大尉を見つめながら左を向いて行く。井学大尉は、瞬きにしてはゆっくりと閉じられる琴美の目に、釘付けになっていた。少しだけ遠くなる顎の先に、白いうなじ。


 そんな琴美の表情が、少しづつ変わりゆく。

 最初は『来てくれた』の笑顔。僅かに開いた口から、僅かに空気が吸い込まれている。まるで喜びを隠すように。

 瞬きした後は『遅いじゃない』という笑顔。口をキュッと閉じ、右側だけの口角を少しだけ上げている。どっちにしろ笑顔なのだ。


 しかし、そんな不機嫌を装ったとしても、それは届かない。

 大尉が、つい目で追ってしまったもの。それは、右手で弾かれた髪の束だ。そんな光景が自分の前で起こるとは、予想だにしていなかったのだ。もちろん練習もしていないし、耐性もない。


 毛先まで整えられた黒い髪がスルンと背中に戻ると、大尉の目に飛び込んで来たのは、天使の輪だ。一瞬、カチューシャかと思う。

 それが少し傾いたと判って、大尉は視線を落とす。直ぐに小首を傾げた琴美の瞳に、気持ちまでも吸い込まれて行く。


「早かったのねっ」

 さっきまで大尉の姿を映していた琴美の瞳が、一瞬で見えなくなった。目を閉じた訳ではない。強烈な視線を感じ続けている。

 少しの垂れ目が笑顔で大分垂れて、細くなっただけだ。


「いえいえ。お待たせしてしまったようで。申し訳ございません」

 練習とは違うセリフ。大尉は直ぐにお辞儀した。

 すると、琴美の表情がまた変化し始める。

 パッと目を見開いて両手を後ろに回し、右の肩を少し上げた。

「私も、今来たばっかりだからっ」

 嘘か誠か。それはもう、この際どちらでも良い。大尉の思いだ。

 今度は反対側に小首を傾げ、大尉を下から覗き見た。見られた大尉が目にしたのは、両方の口角が均等に上がった琴美の笑顔。


 思わず大尉が右ひじをつき出すと、琴美がそこに腕を通して来た。

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