ハッカー殲滅作戦(三十三)
「じゃぁ、連絡はどうやって取り合うの?」
質問したのは琴美だ。楓は直ぐにスマホを取り出した。途中までのダイヤルは取り消しだ。今はそれどころじゃない。
「これで良いんじゃない?」「メールで良いんじゃない?」
朱美もスマホを取り出していた。さっき『盗聴器付きバック』を取りに行ったときに、ついでに持って来たのだろう。
「それじゃ駄目だよぉ」
琴美は反対なようだ。楓は首を傾げた。
何が駄目なのだろう。琴美だってスマホを持っているし、電話番号だって知っている。メールアドレスだって交換し、てない?
「メールアドレス、教えて?」
楓が琴美に自分のスマホを突き出した。琴美は首を横に振る。
「私、電子メール、使わない人なのでっ」
そう言って、自慢でもするかのように右手を胸に充てる。楓と朱美は目を丸くするばかりだ。スマホを持っているのに?
「そうなの? 驚きぃ」
「だよねぇ。それに『電子メール』って、久々に聞いたわっ」
楓と朱美が感心しながらも、笑っている。
「じゃぁ、どうするの?」「そうそう。どうするの?」
すると琴美が顎を上げ、得意満面の顔になった。
「そりゃぁ勿論、『モールス』でしょう!」
楓と朱美を『ピッ』と指さしながら、琴美が言い切った。
「えぇっ、やっだぁ。トンツーなんて、面倒臭いじゃないぃ」
「そうよ。いつの時代よぉ。もう、久しく使っていないわぁ」
楓も朱美も嫌そうに反論しているが、使えるようだ? えっ?
「近場では『モールス』、届かない所は『ハガキ』よ。当然よぉ」
何か違う気もするが、琴美が言いたいのは『近くで見張るのなら、モールスにしようぜ』ということのようだ。
楓と朱美は溜息だ。『ライトでチカチカ』でも、『指でトントン』でも良いけどさ、はぁ。面倒臭いの一言である。
「それにハガキって。まさか『あぶり出し』じゃないわよね?」
楓が琴美向かって念を押す。すると琴美は『え?』な顔をする。
「当然じゃなあぁい。秘密のハガキでしょ?」
すると朱美が渋い顔になり、頭を抱え始める。
「えぇぇ。みかん買ってこないとぉ。酸っぱいやつぅ」
楓も渋い顔だ。後で『みかん汁』の調合調べないと。はぁ。
「ねぇ、判ったけど『隣の部屋同士』でも、それやるのぉ?」
「いやいや、それはモールスで良くない? 近いんだからさぁ」
「いやいや、それは普通に会えば良くない?」
「そんなこと言ってぇ。モールス判んないとか? でしょぉ?」
「な、何よぉ。判るわよぉ」「まぁ、普通に判りますけど?」
悪戯っぽく言われれば、反論してしまうと言うものだ。すると、琴美が『本当かしら?』という顔をして、机をトンツーし始めた。
「ツートツート・トツー・ツート・トツートト・トツーツー・ツートトツー・トトツーツー・ツートト・トト・ツーツーツー。ハイッ」
「ニイタカヤマノボレ」「そうね。何それ? 富士山じゃないの?」
楓も朱美も笑顔の琴美を見て、不思議そうな顔をするだけだ。




