ハッカー殲滅作戦(三十二)
琴美は渋々『盗聴器付きバック』を受け取った。
盗聴器が付いていなければ、琴美のお小遣いでは買えそうもない、ハイブランドのバックである。普通に委縮すると言うものだ。
このバックに合う『お洋服』も揃えないといけない?
ここから『キャラクターのハンカチ』が出てきたら、ダメ?
そもそも、電車やバスに乗ってはいけない感じ。
「好きに使ってね。トラブルで無くなっても、文句言わないからぁ」
朱美が気を使ってか、琴美に補足する。琴美はそれでも不安そうに朱美の方を見て、左右の目をやや不均衡にした笑顔で頷いた。
何だか、酔いも覚めてしまったのだろうか。
「じゃぁさぁ、当日は『離れた席』から、見守るねっ」
楓が笑顔で琴美の肩をポンと叩く。笑顔の理由。それはもちろん『面白いことが起きそう』という期待である。
それでも少しは安心したのか、琴美は頷いた。バックの取っ手を腕にかけて、楓を拝む。
「たっ、頼むよ? 一緒に行っても良いけどっ」
「あぁっ、良いわねぇ」
頷いたのは朱美だ。実は朱美も、楽しみにしているのだろう。
「それは面白くないよぉ」
拝まれた楓だけが冷静だ。腕を組んで考える。
「お義姉さんは、『面が割れてる』んだから、変装しないと」
「そうねぇ。確かにそうねぇ。新しい帽子買おうかしら?」
何だか楽しそうに、悩み始めたではないか。
「私も変装して行こうかしら。男装しちゃったりして?」
楓は決め顔で顎を引く。途端に朱美が笑顔になる。
「良いわね! 私と『カップル』って設定にする?」
「別に良いけど、兄貴に見つかったら大変よ?」
楓も『浮気の現場』みたいな感じにで押さえられても困る。琴美だって一応心配そうな顔だ。新婚なのに面白、いや、申し訳ない。
「大丈夫。大丈夫。徹さん今度『富士山測候所』勤務みたいだから」
能天気に右手を振りながら、朱美がぶっちゃける。楓が吹いた。
「ブッ、まじで? 今度は富士山なのぉ? 大丈夫なの?」
「知らないわぁ。『富士山麓オウム鳴く』が真実かどうか、確認するって言ってたわ」
「何それぇ。ホント、気象省も人使い荒いわぁ」
楓が呆れて、両手の平を上に上げ、首を横に振っている。
「じゃぁ、チーム『女子会』の結成ねっ」
朱美が嬉しそうに両手を叩いて提案してきた。楓が身を乗り出す。
「そぉだねぇ。『琴美の純潔を守る会』って名前にしようかぁ?」
琴美を覗き込むと、琴美は渋い顔だ。もっと他に良い名前が。
「わっ私、彼氏、うーん。『撫子会』ってのはどう? 大和撫子の」
何かを言い直して提案する。楓も朱美も、一・五回頷いた。
「まぁ、良いんじゃない?」
「そうねぇ。『麗人会』じゃぁ、ちょっと嫌みっぽいもんねぇ」
ここに『東京地下解放軍』『陸軍第三十三師団』『防疫給水部』『吉野財閥自衛隊』『薄荷飴』に続く、第三勢力『撫子会』結成、成る。歴史的な瞬間だ。
三人はティーカップを掲げて『撫子会』結成を祝った。




