表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
396/1530

ハッカー殲滅作戦(三十一)

 ボリボリと、チョコチップ入りのマフィンを食べている所に、朱美がご機嫌で帰って来た。


「ジャーン! これが『盗聴器付きバック』でーす!」

「ホントだぁ、それ借りたことあるぅ。ちょっと、やぁだぁ」

 笑顔で突き出したバックは、当然のことながら『盗聴器付き』とは見えない。普通のブランドバックである。

 琴美はちょっと大きめに残っているマフィンを、パクンと口に入れ、笑顔でそれを両手で受け取った。

 そして、ひっくり返したり中を覗いたりして、盗聴器を探す。


「どふぉにしかけら、グフォッグフォッ」

 お行儀が悪い。食べながら喋るからだ。片手で口を塞ぐと、楓がやってきて背中を叩く。

「なぁにやってんのよぉ。紅茶飲みなさいよぉ。もぉ」

 と、言いながらパッとバックを取り上げる。背中を叩いてあげたのは、バックを取り上げるためだった。一瞬の隙を突いた作戦だ。

 そして楓も、あちらこちら観察を始めた。首を捻る。


 琴美は自分で胸を叩いて、喉に詰まったマフィンをやり過ごす。『紅茶の力には頼らない』そんな気概すら感じる。

「ちょぉっと、見ぃせてよぉ」

 口の周りを手で拭いてから、楓が持っているバックに手を伸ばす。こらこら。手を拭きなさい。

 しかし楓がまだ見ている最中なので、琴美の手は『ヒュッ』『ヒュッ』と、空を切るばかり。楓には琴美の手の軌道が読める?

 朱美は自分の席に座って紅茶を飲みながら、そんな二人のやり取りを眺めていたのだが、永久に盗聴器が見つからなさそうだ。


「貸してごらん。ここにあんのよぉ」

 楓に手を伸ばすと、楓は素直に渡した。琴美の手も引っ込んだ。

 朱美がバックを手にすると、表と裏を確認し、取っ手が縫い付けられた場所を指さした。


「本体はこの中にあるの。ハンドルの中にアンテナ線」

 テーブルの上に指さしたまま差し出した。

「こんな所にぃ? わっかんなぁい」「だねぇ。判んないわぁ」

 楓も琴美も、身を乗り出して覗き込む。楓がそれを取り上げた。

 目を皿のようにして見ているが、完全に縫い込まれていて判らない。これなら『中に何があるか』を調べることもされないだろう。


「これ、スイッチとか、ないの?」

 楓がパッと気が付いたように聞く。リモコン式かと考えていた。

 だから、朱美が笑顔で手を伸ばすと素直に返す。

 所が朱美は、それを両手で持ち直すと、そのまま琴美の方に差し出したのだ。

 琴美はパッとそれを手にしたのだが、目をパチクリして楓の方を見た。当の楓も、目をパチクリしているだけだ。


「スイッチないのぉ。もうね、ずぅっと垂れ流しぃ」

 悪戯っぽく言って、朱美は両手を上にあげる。『もう渡したからねっ』ということだ。

「えぇっ、いぃやだよぉっ! なにそれっ」

「良いじゃん! いらんっ! 隣で聞いててあげるよっ!」


 今度は琴美と楓の間で『押し付け合い』が始まったようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ