ハッカー殲滅作戦(三十)
琴美のニヤケながらの指さし確認に、朱美はフッと吹き出す。
「違うからぁ。私、そぉんなに速くないしぃ」
それでも照れ隠しのように、紅茶を一口飲む。
「そぉなんですかぁ?」
二人共、悪ふざけが過ぎるようになっている。まぁ、仲が良いのは良いことだ。朱美はティーカップを置くと、楓に持たれかかる。
「速いのは、楓よねぇ。この間もねぇ。凄かったのぉ」
ポンと楓の肩を叩きながら、トンでもないことを言う。すると、琴美がニヤリと笑う。どうやら『意味』が判ったようだ。
「あらあら。かぁえぇでぇ。可愛い顔してぇ。そうなのぉ」
「ちょっとぉ。毎日特訓している琴美には、言われたくないわぁ」
楓も負けてはいないようだ。『ケケケッ』と下品に笑い、飲み干したティーカップを、テーブルに置く。
「琴美ちゃん、自主練してるのぉ? 手伝ってあげようかぁ?」
朱美は楓に持たれかかったまま、琴美にも手を伸ばす。
三人がさっきから飲んでいる紅茶。只の紅茶ではない。実は楓の母・静が、ナイショで『特製ブランデー』を入れていた。
理由? もちろん『ハイ』にして、口を割らせるためだ。
「なぁに言ってるのぉ。私は『イメトレ』重視だからぁ」
両手を広げて琴美がアピールしている。左手を颯爽と上にして、ピラピラやりながら上を向く。
それに合わせて頭を振ったときに、『パチン』と髪留めが外れ、髪がバサーっと落ちた。本人は随分調子に乗っている。
「凄いじゃん! それ『彼氏』の前でやりなよぉ」
「イイネ! 絶対『お持ち帰り』してくれるよぉ」
琴美は尚も上を向いたままだ。目でも回っているのだろうか。
「どうよぉ。デートに、付いて来るんじゃぁ、ないわよぉ?」
腕を勢いよく振り下ろし、楓と朱美を順番に指す。
すると楓が渋い顔になり、右手を横に振る。
「行かない。いぃかなぁいっ。でも、盗聴器は、仕掛けさせてぇ」
それを聞いた朱美がパッと立ち上がり、楓がガクッとなる。
「盗聴器付きバック、貸してあげまぁす」
右手をあげて秘密道具を暴露。楓が倒れないように堪えながら、朱美を見上げている。
目の前になった朱美の太ももを、ペチンペチン叩きながら言う。
「ちょっとお義姉さん、そんなの持っているのぉ?」
「流石、731部隊の協力者! 良いの持ってますねぇ。是非!」
琴美は両手を差し出して『貸して下さい』を強烈にアピールだ。
「いいわよぉーん。あぁっ、ちょっと待っててねぇぇぇ」
朱美は、まだ叩いている楓の手を退け、それでも上機嫌で歩き始めたのだが、ちょっとフラフラしている。
「おねがいしぃまぁぁすぅ」
琴美が会釈すると朱美は振り返り、手をあげた。逆の手でノブを押していたが、引いた瞬間『おわぁ』になっている。楽しそうだ。
「今度、私にも貸してくださぁーい」
楓も笑いながら『ついでのお願い』をすると、朱美が振り返る。
「もう、貸したことのぉ、あるやつよぉぉ(キメッ)」
「いぃやっだぁ。(チュッ)なぁにぃを録音したのぉぉっ」
朱美はその問いには笑顔で何も答えず、扉の向こうに消えた。




