ハッカー殲滅作戦(二十九)
「へぇ。人工知能で操作するんだぁ」
楓が勝手に納得している。まぁ、その通りなのだが。
朱美は両手の平を上にして、『周知の事実』のように話す。
「コントロールルームは本社でも秘密でね。窓もないの」
「秋葉原の本社ですか?」
琴美の質問に、朱美が頷く。
「そうよ。で、入り口も『薄荷乃部屋』ってあるだけ」
そこで苦笑いだ。朱美は思い出す。
実はダミーの扉があったりするのだが、そっちは『まともな名前』が付いている。開けた所で、何があるかは知らぬ。
「看板がない方が良くない?」
琴美らしい考えだ。朱美はフッと息を吐く。
「それ、謎なのよぉ。でも看板あってもなくても、関係ない」
朱美が右手を横に振っている。それを見た楓が聞く。
「何で?」
「だって、セキュリティ対策されてるし」
すると琴美が、苦笑いで前のめりになった。
「あれですか? √5とか、eとか?」
「そうそう。何、知ってるの?」
朱美が思い出して笑っている。聞かれた琴美は口をへの字だ。
「えぇ。それ仕込んだの、お父さんでしょう?」
「やっぱりそうなの? そんな感じするわぁ」
「絶対そうだよ。毎回変わるの、面倒臭いですよねぇ」
「そうそう。ホントそうよ。顔認証だけで良いのに」
毎日『セキュリティゲート』を手動で通過している琴美には、朱美の言い分も良く判る。
「でもそんなの、爆破しちゃえば良いんじゃね?」
物騒なことを言うのは楓だ。きっと部下に指示すれば直ぐだと、思っているのだろう。しかし朱美が激しく右手を横に振る。
「無理無理。入り口の扉、すんごい分厚くて。あ、これ言えなーい」
「そぉんなに、分厚いんだぁ」
楓は手榴弾に取消線を引き、ロケットランチャーを取り出した。
「中もね、人工知能がずっと監視している感じだから、ハッカー以外が入ると、何が起きるんでしょうねっ!」
「もしかして『イーグル』『ホーク』『ファルコン』とか?」
間髪入れず琴美が聞く。しかし、適当に言っているのだろうか。
「うん。まぁ、そんな感じ」
情報が古いのだろう。『ホーク』と『ファルコン』は居ない。
「後は、誰がいるの?」
「それはナイショ」
「えー。いいじゃーん。じゃぁお義姉さんは?」
「私はぁ。ナイショ」
言い掛けて止める。だって目の前に『来歴』を知る人物が。
「えぇー教えてよぉ」「そうだよぉ。良いじゃん!」
直ぐに朱美は考える。鳥の名前を私が付けて良いならと。
「私は『スワロー』よ」
燕は渡り鳥。NJSへ出向で来ている朱美に、ピッタリの名前だ。
「へぇ。カッコいぃ!」「凄く、速・そ・うですね!」




