ハッカー殲滅作戦(二十八)
朱美が真剣な顔になる。その整った顔立ちは、マネキンのようだ。
「絶対に秘密だからね?」
楓の目を見て念を押す。そして琴美にも。二人共、一応頷く。
「NJSで新兵器を作っていてね。それのお披露目を兼ねて、アンダーグラウンドのテロ組織を、一掃するの」
「どんな兵器なの?」
楓が聞くと、朱美は『知っている癖に』とでも言うように、目を向ける。楓は首を傾げている。
「言えないけど、名前だけね。『イチゴちゃん』って言うの」
「何それ。全然判んないじゃん」
楓が鼻で笑っている。琴美は目を丸くして、思わず聞いてしまう。
「それ、知ってる。じゃぁ『ミントちゃん』も兵器なの?」
確か、馬鹿イーグルのPCに『リファレンス・マニュアル』の類が転がっていた。となると、あれは相当ヤバい資料じゃないか。
やっぱり、イーグルは馬鹿なんだ。
「何で知っているの!」
朱美が驚いて大きな声をあげる。琴美の表情は変わらない。
どこから漏れた? 高田部長? いやそれはない。
琴坂課長? 絶対こっちだ。お父さんダメじゃない。
いくら娘が可愛くても、それは絶対ダメな奴!
「何でだろうなぁ。ネットで見たかも?」
おいおい何て物騒な世界なんだ。ネットで見れちゃまずいでしょ。
「マジで? どこのサイトよ?」
楓の疑問はもっともだ。しかし琴美は『何処だっけかなぁ』と首を傾げるだけだ。楓は琴美を見ながら考える。
やはり琴美は『ハッカー』なのだろうか。
いや『なのだろうか』じゃない。間違いなく『ハッカー』だ。
待て待て。もしかして、噂のハッカー『琴坂琴美』本人、なのでは、ないか? 目の前に広がるお花畑が。
だとしたら判る。全軍揃って『監視対象』に指定する訳だ。
「何だ。皆、知ってるんじゃん。怖いなぁ」
朱美は琴美と楓を順々に指さしている。楓は『ちゃうちゃう』と思いつつも、否定はしなかった。
「それを二千機用意してね、本社からコントロールして『ブーン』って行くのよ」
朱美が右手を高く掲げてカクカクと飛ばしている。
「ドローンなの?」「そうそう」
楓が聞くと朱美が頷く。直ぐに楓が聞き直す。
「やばくね? 二千機も、どうやってコントロールするの?」
それに答えて良いものか。朱美は躊躇する。
「人工知能じゃん?」
琴美は昔、父の書斎に入ったとき、そんな本が沢山並んでいたのを思い出す。父のパソコンから『お話』をしたこともある。
またしても正解を言われてしまった朱美は、苦笑いだ。
「全然ナイショじゃないジャーン。困ったなこりゃ」




