ハッカー殲滅作戦(二十七)
琴美がマーガレットの花びらを、一本づつ抜いている。
そのつぶやきが『好き』だけになって直ぐに、楓から再び剛速球がやってくる。
「何? 琴美、あんた『好き』なの?」
「どうだろうねぇ」
琴美は冷静に見送った。今度は真ん中だったが『やや高め』だったようだ。
「え? 違うの?」
朱美が慌てて聞く。さっきまでデレデレしていた琴美が、一気に冷静になっている。
「彼ね『雨に濡れたら溶けるのを何とかしたい』って、言ってたの」
なるほど。琴美の研究に興味を持ったのか。楓は納得して頷く。
琴美がそんな『危険な研究』をしていると知っているのは誰だ?
査読で落とすように手配したのに。何処から漏れた?
関係者以外では、絵理、美里、それと井学教授だけ。怪しいのはもちろん井学教授だ。何しろ研究結果を受け取る立場の人間。
「何で彼氏が知っていたの?」
ダメ元で楓が琴美に聞く。井学教授から、何か聞いているかも。
「論文のデータベースから、検索したんじゃないの?」
琴美らしい答えだ。確かにそれは考えられるだろう。
「そっかぁ。なるほどねぇ」
楓は頷く。そして、振り返って机にあるスマホを手にした。
実は琴美の『危険な論文』。それは『本人のID』以外では、検索されないようになっている。つまり『検索されること』はあり得ないのだ。そうなると、残る選択肢は一つ。井学教授だ。
危険人物は消し去るのみ。楓はスマホのダイヤルを始めた。
「それよりさぁ、ちょっと聞いてよぉ」
パチンとタイミング良く、琴美の手によって楓のスマホが叩き落された。低い位置から落ちたので、壊れてはいないだろう。
「あっ、ごめん」
「うん。ダイジョブ。で? 何?」
楓は暗号打電を中止して笑顔になる。それを見て琴美が話す。
「今度『アンダーグラウンド』で戦争になるって。知ってる?」
聞かれた楓は『そんなの知りません』という顔をして、首を横に振る。目がちょっとパチクリしているので、本当だろう。
琴美は『そうかぁ』という顔になって、今度は朱美を見た。
「知りません。知りません!」
物凄い勢いで朱美が首を横に振っている。これは『知っているけど言えない』という奴だ。琴美と楓は目で示し合わせて飛び掛かる。
「お義姉さまぁ。知っているんだったら、教えてくださぁいっ」
色っぽくもすり寄っているが、楓の圧の掛け方は『プロ並み』だ。
「そうですよぉ。彼は『我が部隊は戦闘を止めたい』って言ってたんですよぉ。詳しく教えてくださぁい」
琴美も真似しているが、それは可愛い妹が『デートに来ていく服とかバックを貸してくれ』と、せがんでいるようだ。
朱美は左右からの強い『圧』を感じていた。渋い顔になる。
「しょうがないなぁ。ココだけの『秘密』だからね?」




