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ハッカー殲滅作戦(二十五)

 時計の鐘が十二回鳴り終わったとき、三人が同時に話始める。

 まるで、長い思考時間が終わって、答えを出すように。


「あのねっ! ゐっ」「あのねっ! ゑっ」「あのねっ! をっ」

 互いに横目で相手の様子を伺う。皆、眉毛をピクピクさせている。

 目を見れば判る。自分と相手のどちらが『より大切なこと』を、言おうとしているのかが。


「ちょっと! ぃ」「ちょっと! ぇ」「ちょっと! ぉ」

 駄目だ。判らなかったらしい。三人は笑い合う。

 しかし、互いに譲る気はないようだ。こうなったら実力行使だ。


「琴美『井学』って『井学教授』の息子? あんた親子になるの?」

 凄く嫌そうに楓が言う。ほら見ろ。琴美の顔が『うぞっ』になっているではないか。


「違うよ。甥っ子だって言ってたよぉ」

 楓はズッコケる。どうやら『誤:息子』で『正:甥っ子』だったようだ。楓は頭中の正誤表を入れ替える。

「何だ、調査済だったんだぁ」

 朱美が安心したように言う。だったら『井学進』が『どういう人物』かも、調査済なのだろう。

 しかし、朱美も楓も、判らないことがある。それは『電話番号から、そこまで判るものなのか?』であろう。


「そうそう。教授に聞いて来たんだぁ」

 また謎が増えた。楓と朱美は真剣に考え始める。

 何故に電話番号から、井学教授に辿り着いたのかを。

「何を? 何を?」

 前のめりで朱美が質問をぶつけると、琴美の顔がパッと赤くなる。


「えぇっとね。どうしよっかなぁ」

 楓は耐え切れなくなり、思わず琴美の肩を『パシッ』と叩く。琴美のモジモジした態度は、まるで『乙女』そのものではないか。

 完全に嫉妬である。琴美の周りに『薔薇の花』が見えていた。


「いたっ! ちょっとぉ、なぁにすんのよぉ!」

 文句を言われても『あぁ良かった』と思うのが、本当の友達である。楓もそうだ。琴美の表情が『素』に戻る。

「そうよぉ。楓ちゃん。今、面白い所なんだからぁ。それで?」

 傍観者にしてみれば、面白さが優先なのだろう。それでも琴美は『一人味方がいたぁ』と思って、朱美の方を向く。

 そして再び『薔薇の花』を身に纏う。


「イチゴのかき氷とぉ、ザリガニ釣りとぉ、カブトムシが好きっ。なんですってぇ。(キャッ)」

 顔が赤らんでいるのを自覚したのだろう。琴美は両手の平を目一杯広げ、それで顔を隠してうつむいた。

 楓と朱美は『ポカーン』とした顔になって、互いに見合わせる。

 どうやら井学進少年は、夏を満喫していたようだ。二人には『おいおい。それかよっ』並みの、どうでも良いことかもしれない。


 しかし琴美には子供の頃、家族と過ごした『楽しい夏休み』の思い出と丸被りしていた。波の音、蝉の声、突然の雨。夏の日々。

 それは『この世界』では封印したはずの憧憬であり、家族とも共有することができない、思い出となっていたもの、だったからだ。

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