ハッカー殲滅作戦(二十四)
琴美は全力で考えていた。普段おちゃらけてはいるが、その実は気が小さい。どんな相手でも合わせられるように、カラオケのレパートリーが常人の二百五十六倍ある。だから字が汚い。
体を制止させたまま、目玉だけを左右に動かし、楓と朱美の様子を伺う。二人の様子がおかしい。何か『まずいこと』を言ってしまったのだろうか。
名前を聞き忘れてしまった失態は、確かに自分の責任だ。
きっと私に『見惚れていた』からに違いない。悪いのは私なのです。だから、進さんを責めないで欲しい。あぁ、罪な私。
だって、あんな時間に学食で『隠れていた』のに。きっと『凄い美人』とか、判り易い特徴を聞いて来たのだろう。
まったく。誰が何処で見ているか油断できぬ。大口開けて食べている時じゃなくて、マジ良かった。
そう。誰彼に聞くこともなく。進さんは、私の所へ真っ直ぐにやって来たの。そして『フルネーム』で確認してきたのよ。
驚いたのなんのって。フフフッ。
あのエロ教授め。ペラペラペラッペラッ私のこと、部外者に話しやがって。進さんは『教授に聞いて来た』って言ってたから『誰やねん』って思ったけど。探し出すの簡単だったわ。
まぁ、楓のことまでフルーネームで教えちゃうなんて、『井学教授』一択じゃん。私は怒っているんだからね?
まったく。いっつもレポートを提出する度に、ねちねち言いやがって。『おやおや今回も弓原さんと共著なの?』とか。ムカつくぅ。
ふざけんじゃないわよ! あんたが狙っている楓は『資金提供と物資調達』がお役目なの! だから『考察とまとめ』は私!
楓が一人で『ノコノコ提出』になんて、来ませんよっ!
まったく、楓が提出しに行ったら、何をしようとしているの?
それに『海軍航空隊の戦闘機乗り』だなんて嘘ついて。
知ってるんだから。『自衛隊の戦闘機パイロットは丸腰』なのよ。拳銃なんて持っていないの! そんなの基本中の基本よっ。
きっと酒飲んで遅刻したか、上官に逆らってぶん殴ったりして、懲戒食らって地上に降ろされたか、Gスーツのスイッチ入れ忘れてブラックアウトしちゃって地上に降ろされたか、あとは、そうね。
空母の着艦を艦首からしちゃったとか。そんな所よ!
それで今は『仕方なく陸軍』なのよっ。
触れてはいけない心の傷なのよっ。
私が慰めてあげないと、いけないのよっ。
あっ、携帯の番号は、確かに陸軍が所有していたわ。
でも、二人はどうして固まっているのかしら。
楓には、確かに申し訳ないことをした。『パンパン』の機会を『私が奪った』みたいになっちゃって、ごめんなさい。
先週末『何』してた? まぁ今度、ちゃんと楓に『申し込みする男』が来たら、早めの予約、勧めとくから。許してね! テヘペロ。
朱美さんは、私が『カスタードから』なんて言って、実は『プレーン』だったのをお怒りなのかしら。怒りの沸点、判んないわぁ。
でも、どうしよう。『チョコチップ』を『プレーン』とコールして取るのは、流石に出来ないわぁ。どうしよっ。




