ハッカー殲滅作戦(二十三)
朱美はフルパワーで考えていた。人の顔に『表と裏』があるように。人の心に『天使と悪魔』があるように。そして、人の頭脳に『インテルとAMD』があるようにだ。
普段グラフィックスはオンボードチップを使用しているが、こういうときは切り替えて『NVIDIA』の登場だ。
並列回路が常人の二百五十六倍ある。だから字が汚い。
この間の『猫の件』、琴坂課長に裏を取った。
『そっ、そんな十三年前のことなんて覚えてないっ、知らないっ!』
確かにそう言っていた。目を泳がせながら。
琴坂課長は『嘘が付けるほど器用』ではない。それは調査済だ。
まったく。高田部長に『パステルのケーキ』を、言われるがままに『二回も買って』帰り、その度に『今度は、なめらかプリンを買って来い』と、家族に怒られる始末。これは関係ないか。
まぁ良い。だから、高田部長にも『自白剤入りのお茶』を飲ませて、それとなく吐かせた。味は『雑巾の搾り汁』に似せてある。
『十三年前から二年間、倉庫で飼っていたことなんて全然ないよぉ』
普段より一オクターブ高い声で棒読み。まるで『心ここにあらず』のような雰囲気。かつ、早く逃げ出したい気持ちが読み取れた。
これは、『薬が正しく効いていた』証拠に他ならない。
少し口元が緩んだ感じも、臨床結果と一致する。間違いない。彼らが口にしたこと。それは『真実』である。であるならば。
決まっている。つまり猫の件は、『嘘!』ということだ。あぁ、指さして大声で言ってやりたい。うずうず。
琴美ちゃん。こちらは既に『調査済』なのだよ。フフリ。
だとしたら、マフィンの自白剤も、琴美ちゃんに効いたはず。
あの言い方、あの笑顔。緩んだ唇。うん。臨床結果と一致する。
うっかり生地に練り込んだから、オーブンによる加熱で『どう変化した』かは、これからの研究課題だ。後で報告書出しておこう。
ふふっ。『耐熱性の自白剤』これは使い勝手が良さそうだ。
しかも今回のは特別製だ。味を何と『バターの味』に似せてある。
成功だ。何しろ自分でも判らない位だ。ふふっ。私天才。押さえていても、自然と『にやけて』が出てしまう。怖いな私。
それに楓ちゃんだって、だいぶ『にやけて』いるではないか。
そうだ。もう一人の私、カマーン。
よりによって、あの『童貞スケベ飛行機野郎』の『井学進』かよ。
実家に帰る度に、垣根の隙間から覗きに来ていた変態野郎だ。こっちが知らないとでも、思っているの?
琴美ちゃん、昼間の狼に『食われちゃって終わり』なんじゃないの? もうね『デザート』じゃなくて『前菜』だよ? 大丈夫?
それにあいつの『ランチ』なんて、『立ち食いソバ』か『座り食い牛丼』くらいしか、知らないでしょうがっ! しれっと笑顔で『ランチでも』なんて。怪しくて普通、付いて行かんわっ。
新宿で出会ったら速攻で眠らされて、駅の反対側にある『部隊の関連施設にご招待』なんじゃないの? お見通しなんだからっ。
とにかく、琴美は『死守』せねばならない。『悪の手』から。




