ハッカー殲滅作戦(二十一)
「その彼氏さんは、どんな人なの?」
朱美がニッコリ笑って聞いて来る。言われた琴美は『特徴』を思い出そうとするが、中々出て来ない。
そりゃそうだ。前半は『楓目当て』だと思っていたので、顔なんて『へのへのもへじ』だ。目が二つに鼻があって、その下に口。
「どんな顔だったかなぁ」
後半は恥ずかしくなって、ずっと下を向いていた。
「ちょっと、大丈夫なのぉ?」
楓は面白がっているだけだ。しかし、仮にも『自分に紹介しようとしていた男』なのだ。
いつもそうだが、なんだか『変なアンケート結果』を送るときに、写真も合わせて送ってくれても良いだろう。
「連絡先とか、交換したの?」
「ううん?」
「なんでよぉ! バカァ」
信じられない。そんな感じで楓がそっくり返る。朱美もガクッとなって崩れ落ちた。琴美だけがキョトンとしている。
「連絡先は貰ったよ?」
どうやら琴美の連絡先は、教えなかったようだ。
「何? どういうこと?」
楓は苦笑いで琴美に聞く。すると琴美は『さも当然』の顔だ。
「だって、女の子の連絡先は、簡単に教えちゃいけないって」
真顔で平然と言う。朱美が目を大きくして琴美に聞く。
「誰が言っていたの?」
「お父さんが言ってた」
目をパチクリさせながら笑顔。やや棒読み気味なのが可愛い。
「ブッ! あっ、ごめんねっ!」
朱美は会社での『琴坂課長』を思い出してしまった。
あの顔でそんなこと言う? いやいや、顔じゃない。プププ。
「おぉおぉ! 子供かっ! お主はガードが堅いのぅ」
楓は『やっぱり琴美は面白い』と思って、パンパンと肩を叩く。
琴美の連絡先なんて、同室になった『その日』に入手しているではないか。もちろん『まき散らす』なんて、していないけど。
「私も聞かなかったけど、名前、教えてくれなかったんだよねぇ」
それが事実かどうかは、お相手の井学大尉に聞かないと定かではない。まぁ、両方とも『極度の緊張状態』だったのだろう。
「マジか! なんというドジっ子。意外とお似合いなんじゃね?」
楓が嬉しそうにしている。どうやら『いじりがいのあるカップル』が誕生したのを、喜んでいる節がある。
「それでね、調べたんだぁ」
それは『幼稚園児』のような、屈託のない笑顔であった。
しかし、笑い転げていた楓と朱美から、ピタッと『笑顔』が消えた。二人同時にだ。しかし、直ぐに今度は同時に『作り笑い』に変わって、琴美に顔を近付ける。
「判ったの? 何て言う人?」
「先輩? 同級生? どこの人?」
「んとね『井学進』っていう、『陸軍』の人」
時計の鐘が鳴る。十二回鳴り終わるまで、三人は動かなかった。




