ハッカー殲滅作戦(二十)
「それで、デートの約束はしたの? どこ行くの?」
「『オール』はするのぉ? ゲヘッゲヘッェ」
朱美の質問の後、楓の下品な質問が続く。
琴美は猫のように『シャーシャー』腕を振り、楓の質問への回答は拒否の姿勢を示す。
まったく。琴美の顔は『照れ顔』と『怒り顔』を行ったり来たりしているが、いずれにしろ顔は『真っ赤』なままだ。
「今度の金曜日に『ランチ』をご一緒するのっ」
垂れ目をもっと垂らして、琴美が恥ずかしそうに告白する。肩まで『キュッ』と曲げちゃって、余程楽しみにしているに違いない。
「やったじゃん! どこ行くの? どこ待ち合わせ?」
朱美が詳しい情報を知りたがっている。まるで詳しく話をしたら、ついて行きそうな勢いだ。
琴美は言うべきか言わぬべきか。言わぬべきか言うべきか悩む。
楓と朱美を交互に見てモジモジしているが、二人の『キラキラした目』を見る限り、『言わぬべき』は許されそうにない。
「新宿アルタ前に、十一時」
そう答えて恥ずかしくなり、下を向く。今日は髪を結んで来ていたので、見えている耳が真っ赤だ。
「おぉ! 新宿なら遊ぶ所も沢山あるじゃん。夜まで遊べば?」
朱美が『正統派デート』の勧めをしているが、琴美は下を向いたまま『私なんか無理』と、手を振っている。
「何だ? 作戦かぁ? 『私、酔っぱらっちゃったぁ』かぁ?」
楓が勧める『玄人派デート』を聞いて琴美は勢い良く顔を上げる。
「昼間っからお酒、飲みませんからっ!」
目の間にある楓の指を、『パンッ』と叩き落そうとしたが、それは空振りに終わった。
そもそも『新宿で遊ぶ』だなんて、琴美には荷が重い。
完全に『アウェイ』だし。もちろん、行ったことがない訳ではない。子供の頃にデパートをウロウロした覚えはある。
「何か琴美はさぁ、『アルタ前集合』って言ったら、お店の真ん前に、立ってそうだよねぇ」
楓は再び琴美を指さしてニヤける。そして朱美の方を見た。すると、『ピン』と来た朱美は、パッと琴美の方を見る。
「違うのぉ? そのつもりだけど? え? 違うの?」
すると楓と朱美が笑い出した。楓はテーブルをバンバン叩く。
「やっぱりだぁ! 琴美、それは危険だよ?」
「そうだよ。琴美ちゃん、良く確認した方が良いよ?」
琴美は訳が分からず二人を交互に見るだけだ。
「琴美ぃ『アルタ前』は駅前の『アルタ前広場』のことだからね?」
楓が笑顔で説明を始めた。朱美も頷いている。
「そうそう。人一杯いて、結局会えないかもだけど」
「横断歩道渡って、『アルタの前』に行っちゃったら、時間が来ても会えないからねっ!」
「でもね、それ『あるある』だから、気が利く人なら探しに来てくれるかもよぉ? 彼氏さんは、どっちかなぁ?」
朱美が補足すると、楓は苦笑いで追加する。
「それ、広場から皆で『あそこに居るぅ』って、そっと見るよねぇ」
琴美は『良いこと聞いたぁ。アブねぇ』と思って、心に刻む。




