ハッカー殲滅作戦(十九)
「何々? 楓ちゃんの『男』を、奪ったの? やるじゃなぁい」
朱美が無神経に言う。言われた楓も笑っている所を見ると、どの道、楓に『特定の男』はいないようだ。
琴美は慌てて手を振る。朱美の目を見て説明を始めた。
「ちっ、違います。その人は、私が『勘違いで楓に紹介』しただけで、最初から『私』に興味があったんですよぉ」
「そうなの? 楓ちゃん、どういうこと?」
朱美は首を傾げて、何故か楓に詳細説明を求める。楓はニヤニヤしていたが、朱美のリクエストに答える。
「私に言い寄って来る男の『交通整理』をね、琴美にお願いしているのよ。ねー」
朱美を向いていた楓が、琴美の方を見て同意を求める。
「そうです。そうです」
琴美は今、『楓の男を奪った訳ではない』を説明するのに夢中だ。
「そんなことをさせているの?」
顔をしかめた朱美が、楓を見てから琴美の方をみた。
思い出してみても、朱美も友人にだって、そんな『交通整理』をしてくれる人なんていない。いや、普通いる訳がない。
すると琴美が、自らことの成り行きを説明する。
「それがね朱美さん。楓への取次ぎを求める男が、もうね、ひっきりなしに来るのよ。何故か私の所にぃ」
「あら、そうなのね。それは大変ねぇ」
朱美は琴美と楓を交互に見た。なるほど納得だ。
今は『楓が笑顔』で『琴美が渋い顔』となっている。それが大学では『楓が渋い顔』で『琴美が笑顔』なのだろう。女の子は笑顔のときが一番可愛いって言うし。
きっと琴美の方が『話しかけ易い』に違いない。
「それでさ、琴美は『オール』してきたの?」
さらりと楓に聞かれて、琴美は全力で否定する。
「何言っての! まだなにもしてません!」
首も腕も横に振っている姿が面白くて、朱美が質問する。
「えぇ。まだ何もなの? どんな人?」
琴美を見ても返事がない。こんどは真っ赤になって下を向いてしまった。何だ? 『ド・ストレート』だったのだろうか?
楓の方を見た。そのまま首を傾げ『知ってる?』と聞く。
「『見た目重視の、最低クズ野郎』なんだよねぇ。琴美ぃ」
楓が琴美を覗き込んで『念押し』するように言った。
朱美は驚いた。琴美の趣味なのか、それとも?
「違うからっ! ちゃんと話を聞いたら、そう言う人じゃなかったからっ! もぉー。止めてよぉ。『私が酷い人』みたいジャーン」
「ヒヒヒッ。自分で言ったんジャーン」
琴美による必死の抵抗空しく、楓は下品に笑いながら琴美を指さしている。朱美には良く解らない。
ただ、二人が仲良しなのは、良く解った。
そんな仲良しの二人が、一人の男に対する評価が『最低』と『最高』に別れたとしたのなら、それはそれで喜ばしい。
そう思って納得しようとしたのだが、何だかそれもおかしい気がしてきた。楓の評価を聞いた覚えがない。あ、でもどうせ最低か。




