ハッカー殲滅作戦(十七)
「そう言われましても、何だかそういうの慣れてないから」
自宅に『監視カメラ』や『盗聴器』が仕掛けられていたら、普通は大騒ぎなのに。
それが、この人達は何だろう。自ら仕掛けて平然としているのだ。
「何? 秘密の話がし辛いとか?」
朱美が悪戯っぽい笑顔になって、琴美に問い掛ける。
「いえいえ。そういう訳ではありません」
慌てて琴美が首も手も横に振る。それを楓が信じると思っているのだろうか。おめでたい奴め。
だいたいだね、目が垂れていて全然信憑性がないではないか。
あっ、いけない。それは元からだった。
「何か隠してるでしょう。その目はぁ」
楓に掴まった。もう逃げられない。しかし琴美は手を振る速度を三倍に加速する。最早ブレて見えない速度に達していた。
朱美が『随分速いわぁ』と、見たことのない速度に感心している横で、楓は『ほうほう』と、そのブレた手を眺めながら考える。
「判った。この間の『男』だっ」
楓に指さされ、琴美の手がピタッと止まった。
「何々? 聞かせてっ!」
朱美が前のめりに突っ込んでくる。女子会で『恋バナ』なんて、定番で楽しい話題ではないか。
ほれ、見たことか。琴美の顔が真っ赤に染まって行く。これは『男が出来た』で間違いない。
「話辛いの?」
楓が残念そうに聞いているが、目が笑っている。
しかし、琴美は素直に頷いた。きっと楓なら判ってくれる。そんな願いも込めた頷きだった。
「そっかぁ」「あらあらぁ」
楓が椅子に寄り掛かり、諦めの表情を見せる。琴美はホッとした。
友達同士の妥協だろうか。二人の表情を見ていた朱美も、それなら仕方ないとおもったのだろう。残念そうな顔になる。
「じゃぁさ、私の部屋に行こうよっ!」
パッと楓が立ち上がる。琴美は目を丸くした。
「あら、良いわね。そうしましょう!」
朱美も笑顔で立ち上がった。琴美は『何を言っているんだ?』という顔をしていて、まだ理解が追い付いていないようだ。
「私の部屋、監視カメラも盗聴器もないからさっ」
「いや、そう言う問題ではなくてぇ」
「じゃぁ、問題ないじゃなぁい」
楓は琴美の腕を掴んで引っ張る。朱美もダイニングから、さっき片付けたお盆を持って来て、机の上を片付け始めた。
「じゃぁ、続きは楓ちゃんの部屋でっ」
朱美が笑顔で事実確認をすると、楓は一層強く琴美を引っ張る。
「えぇえぇえぇ。私の話なんか、面白くないよぉ」
既に無駄な抵抗だ。琴美は思う。今日はマフィンを腹いっぱい食べるつもりだったのに。これは予想だにしなかった展開だ。
「お義姉さん、お願いねぇ」「はーい」
それにしても、姉妹の連携プレイは完璧のようだ。
琴美は渋い顔のまま、楓の部屋へ強制連行されて行った。




