ハッカー殲滅作戦(十二)
楓の家に着いた。どうやら都内のマンションらしい。
らしいと言うのは、外を見ていたからではない。
ハーフボックス内では、いつもの『コマーシャル』ではなく、静かなクラッシックが流れていた。曲名は知らない。
それが少しの衝撃があって、どうやらビルの『縦方向の通路』に組み込まれたのが判ったからだ。
程なくしてハーフボックスは上昇を始める。人間、流石に『上昇』していく感覚は判る。
一応『分類学上』は『エレベータ』になる、このハーフボックスは、ビルの外では自動運転の台車で運ばれる。そして目的地が規格の合うビルなら、そのまま玄関先まで移動できるのだ。
「着いたよぉ」
扉が開いて『ホレホレ降りろ』と手招きをしている。扉は左側の片開と決まっていて、右側は扉がない。
琴美は名残惜しくも、特別な空間から外に出た。
そこは、お金持ちの巣窟と呼ぶには、少し地味にも感じた。
白を基調とした明るいエレベータホールから、等間隔に玄関扉が見え、特に『金持ち感』がない。電飾もごっついシャンデリアではなく、ごく普通の照明だ。
いや、少しだけ扉の間隔が広いだろうか。
真っすぐに伸びる廊下と、その先、遥か先に見える『既に小窓』からは、見覚えのあるタワーが『あり得ない位置』に見えている。
おやおや? 随分ここは『高所』のようだ。
そして周りには意外と人が多い。あちらこちらで工事中だ。
みんな仕事をしているが、音楽を聴きながら仕事をしているのだろう。流行りなのか、皆同じ白いイヤホンをしている。
あちらで点検口を開け、中を覗き込んでいる男は、サングラスを掛けていて、凄い念の入れようだ。
絵画を架け替えようとしているのか、向こうの二人組は脚立を組み立てて一段目に足を掛けているが、安全ロックを忘れている。
己の安全の為だけじゃない。絵の安全も考慮した方が良いだろう。
こっちの電気メーターを点検する男にしてもそうだ。
「琴美! ここだよぉ」
楓に呼ばれて、琴美は人間観察を止めた。笑顔で楓の手招きに呼ばれて行く。
「楓、大丈夫? 何か怪しい人が一杯いるけど?」
「どの人?」
小声の琴美を面白がって、楓が笑顔で首を伸ばす。琴美は慌てて楓を押さえる。チラチラこっちを見ているのに、楓は不用心過ぎる。
「駄目だよ。こっち見てるって。あっちもこっちも」
「そう? 後で管理室に言っとくねっ。ありがとっ」
楓が笑顔で言っても、琴美は渋い表情のままだ。
「そうした方が良いよ。何か皆マッチョでさ、怖くね?」
「あはは。琴美は良く見てるねぇ! たぁだぁいぃまぁ!」
玄関扉を開けながら、笑顔で楓は琴美の背中を『パンパン』と叩く。琴美の心配は有難く受け取っておく風だ。どうなんでしょ。
二人が玄関に入るのと同時に、廊下の作業が全て終わったようだ。




