ハッカー殲滅作戦(十一)
「何だかいつもの『ハーフボックス』じゃないのね」
琴美が遠慮しているのに、楓は当然のような顔。周りに誰もいないが、みんなこんな黒塗りのは見たことがないだろう。
それを楓は事も無げに認証して扉を開ける。やはり本物だ。
「そうかね? 色々あるんだよ?」
扉を開けて乗り込む。
流石に『ドアマン』まではいないようだが、楓が呼んだ黒塗りの奴は『静止』している。いつもの広告が流れる奴は、ゆっくりと動き続けているのにだ。
まるで周りがどうなろうと、賓客が乗車するまでは待機。そう仕込まれているようだ。
いや、車いすとかお年寄りとか、そっち系の配慮だろう。
人はどうしても『自分中心』で何でも考えがちだ。色んな人が使う公共のインフラ設備は、色んなことを想定できる人が設計しないとよろしくない。
琴美はそう思っていた。それにしても、色んな『モード』があるなぁと。今度調べて見ようと思ったとき、中から楓が琴美を手招きしているのが見えて、慌てて乗り込んだ。
「何、ボーっとしてるの?」
「これ、沢山集まると『棺桶の山』みたいだよね」
ちょっと大きいけど、黒い細長い箱。確かに棺桶に見えないこともない。しかし楓は『そんなこと思ってもいなかった』という顔をして笑い出す。
「黒い棺桶なんて、無いじゃん! 面白い!」
「あっ、そうかも。霊柩車だった」
言われて初めて気が付くこともある。琴美は自分の頭をコツンとやって反省する。
「霊柩車は『山積み』にしないじゃん!」
「あっ、それはそうだね。廃車置き場でも見たことないや」
「何それぇ。琴美は変わってるねぇ」
太ももをパンパンと叩かれて、琴美は苦笑いした。
「いつもの奴じゃダメなの? 家に帰るのに」
琴美が下を指さして聞いているのを見て、楓は理解する。
「そうそう。『セキュリティ上の問題』でさっ」
「そうなんだ」
あぁ、なるほど。流石お金持ちだ。
「例え行先を設定しても、事前に認証した奴じゃないと、行かれないんだよねぇ」
楓が笑顔で説明してくれた。琴美は感心して頷く。
「知ってる? ちゃんとね、事前に認証した人が『生きていないと』ダメなんだよぉ」
そう言って楓が琴美をつっつく。琴美は腰が低くなる。
「くすぐったい。やめれぇ。どうもすいませんねぇ」
はいはい。判っていますよ。判っていますとも。
耳の裏に『マイクロチップ』を埋め込んでいない人は『荷物と同じ扱い』なんですよね? 判っていますとも。楓様。
吉野財閥関係者だけが通れるゲートを、『吉野財閥送迎用ハーフボックス』は、スパンスパン通り抜けて行く。




