ハッカー殲滅作戦(七)
「声、でかいすよぉ!」
制止する黒井の声もでかいからか、黒田は黒井を指さして笑っているだけだ。反省する様子は微塵もない。
「良いのに乗ってるじゃん! 空軍か?」
黒田の質問に答えるような雰囲気ではない。辺りを警戒している黒井に、黒田は呑気に質問をぶつける。
「空母に着艦は? 出来る?」
「出来ませんよぉ」
流石にそれには答えた。何か誤解をしているようだが。
「何だ。空軍か? ドックファイトは?」
「しぃませんよぉ。爆撃だけです」
覚悟だけはして、いつも飛んでいた。しかし訓練の殆どは『対艦ミサイル』である。
「そうなんだ」
「ですです。機銃なんて、訓練でしか使わんです」
昔とは時代が違う。但し『丸腰』にはなりたくはない。
「じゃぁ訓練では、何機撃墜したの?」
黒井は再び周りを見渡してから、右手をパッと広げて『五機』を表現すると、直ぐに握り直した。
シミュレータ対戦ではなく、実機の判定で負けたことはない。
「凄いじゃん! 『エース』ジャン!」
「声がでかいって! じじいっ! 耳が遠いのかっ!」
大したことじゃない。だって同僚はみんな『負け知らず』なのだ。
そうとは知らない黒田は、真顔の黒井を見て『謙遜』と受け取ったようだ。目をキラキラさせている。
「何? ブルーインパルスとか、目指してた感じなの?」
「目指してましたけど、ちょっとドジったんですよ」
黒井の顔が曇る。流石にその顔を見たら、黒田も小声になる。
「そうかぁ。まぁ、酒が不味くなるから、その辺の話は止めとくか」
酒なんてない。しかし黒田は笑ってお冷を持ち上げた。
「酒、出て来るんですか? 俺、明日も『非番』だから、付き合いますよ?」
フライトの前は、いつも禁酒で通していた黒井にとって、寂しいかな今は、酒を飲み放題だ。
そんな話を聞いて、黒田にも思う所があったのだろう。お冷を一気飲みしてテーブルに置く。
「でも、F2だったら、ブルーインパルスに乗れたのになぁ」
「え? ブルー、F2なんですか?」
テーブルを指さして、今度は黒井が素っ頓狂な声をあげた。
「他に、何を使うんだよぉ?」
そりゃぁ、黒井だって『F2がブルーだったらなぁ』なんて、思っていた時期もある。しかし、そうは行かないのが世の中なのだ。
「いや、こっちではTー4でしたけど?」
「あれも良いけどさぁ。『最新鋭』で行こうぜ? なぁ?」
『元気を出せ』とばかりに、パチーンと肩を叩く。思わず黒井は苦笑いする。想像した姿を思い浮かべ、ちょっと違うと思ったからだ。
『F35のブルーかぁ。限りなく透明に近いブルー、だな』




