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父はハッカー(四)

 コピー室では、山崎がコピー機に紙の補充をしている所だった。

 そこに牧夫と金田が、同時に到着する。


「あと三部です」

 先に山崎が答えた。どうして作業が遅れているのかは、『この状況を察せ』と言わんばかりの冷たい声だ。


「やまちゃん、ちょっとお願いしたいことがあるんだけどー」

「これが終わったら伺います」

 山崎はコピー機の引き出しをバタンと閉めて、床に置いてあったコピー用紙の包み紙を拾い上げる。

 それを牧夫が取上げたのだが、彼女は嫌がる素振りもなく、所有権を直ぐに放棄した。


 そしてそれを、金田が牧夫の手から奪い取ったのだが、牧夫は所有権を剥奪されたことに、気が付いてさえいなかった。


「部長の指示なんだけどー」

 山崎はコピー機の液晶画面から視線を外し、牧夫の方を見た。

「何でしょう?」

 彼女にも、課長御自ら場末のコピー室に足を運んだことに、少なからず理由があることに理解を示した。


 そして、今自分がしている仕事を牧夫が引き継ぐこと。しかしそれを嫌がって、金田が来たこと。なるほどなるほど。

 確かに牧夫の言葉に、嘘はないようだ。


「吉沢さんの持ち物検査を、して欲しいんだけど」

「帰国子女のですか?」「そう」

 ここでも吉沢は有名人の様だ。


「何を調べるんですか?」

 山崎はコピー機の前に立ったまま話を聞こうとしていた。しかしそこへ、金田が右手を振りながら目で『ありがとう』を言い、山崎に近付いた。


 それを見た山崎は、軽く頷いてコピー機の前を離る。そして、コピー室から先に出て行くものだから、牧夫は慌ててその後に続く。


 金田はほっとした。再スタートしたコピー機は順調で、あとはコピーが終わるのを、待つばかりとなっていたからだ。



 牧夫と山崎は、パソコンの画面を二人で仲良く覗き込んでいる。

 持ち物検査をする会議室を予約しようとしていたのだが、どこも満杯だったからだ。


「どっか空いていないの?」「どこも予約されていますね」

 会社には、インターネット技術を使ったイントラネットが構築されている。

 パソコンのウェブブラウザを起動すると、最初に会社内用のホームページが開き、そこから社内電話帳や座席表などのページ、会議室や食堂の予約ページなど、各種公開情報にアクセスできる。


 社員番号とパスワードを入力してログインすれば、そこで給与明細はもちろんのこと、社内預金の残高や持ち株会の株数なんてものまで、拝むことができる。


「どうしたんですか?」

 コピーされた資料を抱えた金田だ。戻って来ると二人の仲に割り込んだ。一緒にディスプレイを覗き込む。

「会議室が空いてないんだよ」「あぁ、そうなんすか」

 他人事のように言う。興味がなくなったのか、それともコピーした資料が重くなったのか、金田は再び歩き始める。

 そして数歩行った所で、山崎にアドバイスを送った。


「五〇三を使えば良いんじゃないすか?」

「五〇三ですか? 十四時から予約されてますけど?」

 金田と山崎の会話に出てきた『五〇三・十四時』というのには、聞き覚えがあった。牧夫は慌てて二人に言う。


「そこは、俺が予約したところだよ」

「じゃぁ、良いですね。ちょっと使わせてください」

 そう言って山崎は、問答無用で五〇三の予約表示を開く。

 十四時からの予約に『琴坂牧夫』の文字を見つけると、削除ボタンにマウスを合わせた。


「ちょっ、ちょっとまってよー」

 牧夫は慌てて、山崎の握るマウスに手を伸ばした。牧夫の手が山崎の白い指に触れる。


「きゃっ」「あ、ごめん」

 山崎の挙げた声に反応した牧夫だったが、自分が予約した会議室の使用権利を失いたくはない。


 しかし牧夫の行為は、会社での信用というものを失い掛けていた。

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