ハッカー殲滅作戦(二)
お手洗いから出て来た二人は、とても晴れやかな顔をしていた。
まるでn人切りでもしてきたかのような、清々しい笑顔で席に着く。直ぐに注文が来た。
「ラーメン・餃子・炒飯」「同じの」
ご主人は二人を交互に見て、一応頷いた。
どうやら二人共、二人前を平らげるようだ。確かにそんな雰囲気はある。がっちりとした体格だし。ご主人は腕まくりをする。
急に忙しくなった。テレビの時間は終了だ。
二人の客はお手洗いに行っている間に、ご主人が置いておいた水を飲みながら談笑を始めた。
「それにしても、どうして731部隊を潰すんですか?」
声が大きいと、黒井を咎める様子はない。何故ならこの世界『731部隊』は、依然秘密のヴェールに包まれた組織であるからだ。
一般人でその名を知る者は居ない。
「そいつらはなぁ。南風に乗せてな? ガスを撒いて居るんだよ」
「やっぱり、碌でもないことをしてますねぇ」
黒井は吐き捨てるように言って、もう一度水を飲む。
「でも、最近は『気を使って』な? 神経ガスじゃなくて、二酸化炭素を撒いているらしいんだ」
黒田の顔はいつもの笑顔だ。それでも少々口をへの字にして、また一口水を飲む。
その様子は、何だか『コップ酒』でも飲んでいるように見えるのは、黒田の人徳なのかもしれない。
「どうせ『殺す』んですよね?」
「いやいや。彼らは殺したくないんだ」
黒田がそう言うと黒井は眉をしかめる。史実通りの最悪の奴らだ。その先を聞く気はしない。特にこれから飯だと言うのに。
「最近は神経ガスより、二酸化炭素の方が『お安く』仕入れられるから、らしいぞ?」
黒田はコップを置き、右手の平を上にして『マネー』のポーズを黒井に見せる。黒井は少し笑った。
黒田は黒井が731部隊を毛嫌いしているのも、どうして嫌っているのかも知っている。
だから『飯前』だし、ちょっとだけ気を使ったのだろう。
「じゃぁ、東部第三十三部隊とは敵対しているんですか?」
「まぁ、そんな感じだ。相手は『第三十三師団』な」
一応黒田は、敵の組織名を訂正した。黒井が口にしたのは『学校の隠語』だったからだ。
「大佐は我々を『テロ組織』と決め付けて、殲滅する気でいるからなぁ。おぉ怖い怖い」
黒田が目を細めて言っているが、本当に怖いと思っているかは感じられない。黒井には何となくそれが判る。
まさか『自分が追われる身』になるとは、考えてもいなかった黒井は、黒田を見て苦笑いだ。黒井は思い出して目を擦る。
交番の掲示板に『東京地下解放軍』の面々は、『指名手配犯』として掲出されていなかった。流行りの『賞金首』でもないようだ。
きっと闇から闇へと、葬り去るつもりなのだろう。地下だけに。
「お待ちどうさま。ラーメンと餃子です」
黒田がパッと先に手をあげて全てを手にする。要領が良い。




