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失敗と成功の狭間(五十九)

「ちゃんと狙ったのか? 空き缶に当たったぞ? ハハハ」

「邪魔しないで下さいよぉ」

 狙撃手スナイパー役の黒井は、不貞腐れて移動を開始した。

 狙い澄まして一撃必殺。狙撃手スナイパーは一発撃ったら移動だ。それぐらいは航空自衛隊員だって知っている。

 実際に『実戦』するのは初めてだけど。空の薬莢を拾うのも、自衛隊時代の癖だ。黒井は苦笑いした。


 二人は人生の先輩である黒田からの提案により、迷彩服を着た上で、顔まで迷彩を施しているのだが、それもこれも、ここ『公園駐車場』では無意味である。

 いや、『危ない人』だと思われて誰も近づかない。むしろそれが黒田の作戦ではないかと、みる向きもある今日この頃だ。


 毎度お馴染みの二人は、東京アンダーグラウンドで暗躍する『ブラック・ゼロ』の構成員である。

 観測手スポッター役の男、本職は武器調達の諜報員で、人呼んで『腹黒じじい』こと『今回は黒田光男』。もちろん偽名である。

 相棒の狙撃手スナイパー役の男、本職は百里基地のF2乗りにして、日本国からの帰らざる使者。人呼んで『異世界から降臨ベイルアウトした疫病神』こと『黒井保』。うっかり本名である。


 二人は黒田が黒井を拾ってからペアを組む、凸凹コンビだ。今日は石井少佐を暗殺しにやって来た。

 部隊建屋を出たのを確認すると、狙撃ポイントに移動する。そこで只ひたすらに待ち続けた。


『来た』

 事前に決めておいた合図を黒田が出す。右手の親指を伸ばして見せ、その後に『パッパッパッ』のリズムで三つの数字を見せた。

 黒井は頷きスコープを覗いて息を止め、集中する。


『距離五百。方位「2ー5ー3」西南西・左から来る』

 程なくしてターゲットの石井少佐が現れる。黒井は照準を少佐のこめかみに合わせた。しかし、ちらちらと手前の部下が邪魔をする。それでも黒井は、息を止めてチャンスを待つ。

 すると少佐が変な方向に歩き出した。どうやら散策路を外れ、池の方に歩いているようだ。すかさず黒井は、スコープのピントをゆっくりと調整して、狙い続ける。

 しかし、池の方が少し低くなっているのか、縦方向の調整を余儀なくされた。僅かな上下の動きは、狙撃手スナイパー泣かせだ。黒井には少々難しい操作である。


 すると突然、スコープに『迷彩色のヘルメット』が映り込む。もちろんピントは有っていないのだが、そんなのは見れば判る。

 どうやら『同業者』がいるようだ。黒井は少佐の歩く方向を予想して、『同業者』に当たらないように、少し上を狙う。そこへ少佐の頭が来るのを待つ作戦だ。黒井は小さく息をして、再び止める。

 スコープの下から、少佐の頭が映り込んで来る。もう少しだ。


「ヘーックション! カーッッペッ!」

『タンッ!』

「おぉっ! こぉんな外し方、あるんだなぁ!」

「何でくしゃみくらい、我慢できないんですかぁ。もぉ」

「生理現象はな、ミリなんだ。お前だって『屁』しただろぅ」

「なっ何分前のこと言ってるんですかぁ! 今はしてませんよぉ」

 おおよそ狙撃手スナイパー観測手スポッターの会話ではないが、お互い本業ではないので、気にもしていない。


「ちゃんと狙ったのか? 空き缶に当たったぞ? ハハハ」

 黒田は笑顔で額を指さした。言われた黒井は真顔のままだ。

「邪魔しないで下さいよぉ」

 とにかく、今日の狙撃は終了だ。撤収は素早く。

 狙撃手スナイパーが狙っていることが、少佐にはもちろん、『同業者』にも割れた。

 少なくとも『地上に味方がいない』ことくらいは判っている。つまりあの『同業者』は、敵と考えた方が良い。


「しかし、日本国からの帰らざる使者。人呼んで『異世界から降臨ベイルアウトした疫病神』でも、暗殺に手を染めるんだなぁ」

 どうやら二つ名を『命名』したのは、黒田のようだ。黒井は物陰で片膝を付き、狙撃銃を素早く分解してケースにしまう。

「その名前、止めて下さいよぉ。『腹黒じじい』邪魔ばっかり!」

 こっちは黒井の普段使いか。『普通の名』のようだ。

「けけけっ! 何だ、外して悔しそうな顔、してんなぁ」

 黒田は全く気にもしていないようだ。黒井を指さして笑っている。そんな黒田を睨み付けたまま、黒井は『パターン』と強めにライフルケースの蓋を閉じる。


「そりゃぁ、731部隊の部隊長なんて、碌なことしてないに決まっているじゃないですか! 躊躇なんてないですよ!」

「流石、日本国からの帰らざる使者。人呼んで『異世界から降臨ベイルアウトした疫病神』は、厳しいねぇ。まっ、ラーメン奢るからさっ」

「だからそれ、止めません? 炒飯と餃子もセットですからね?」


 二人は笑顔でド突き合いながら、飲み屋街の方に消えた。

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