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失敗と成功の狭間(五十五)

 少佐の勢いに、押されてばかりではいられない。

 大尉は少佐に楯突くつもりはないが、『尾行不可』の理由くらい知りたいではないか。

「なぜですか?」

 だからいつもより強めに聞いてしまった。

 しかし、そんな大尉の強い問いを受けても、少佐の決意は変わらないようだ。

 小さく溜息をして立ち止まる。そこで、左手に持っていたお茶を一口飲む。そしてもう一口。同じ動作の繰り返しだ。


 大尉は少佐の言葉を待っていた。だからそのまま少佐がお茶を飲み終わるのを、ただ眺めている。

 そんな大尉を気遣う様子は、少佐からは感じられない。

 少佐は二口お茶を飲んだが、缶を耳の傍で振っている。どうやら『チャプチャプ』音を聞いて、残量を確認したようだ。

 まだ入っていると思ったのか、上を向くようにして、最後のお茶をグイッと飲み干した。

 多分『お茶タイム』は終わりだろう。大尉がそのタイミングで、もう一度聞こうとした時だった。


「我々は、監視されている」

 少佐は大尉に背を向けると散策路から外れ、池の方に向かって歩き出した。何をしたいのか不明だが、大尉は後を追う為に砂利道の散策路を一歩踏み出した。

 するとその音で、大尉が後を追うと判ったのだろう。背中を見せたまま右手を出して『来るな。戻れ』と合図する。大尉は一歩踏み出した所で、散策路に踏みとどまった。


 少佐は尚も池に向かっている。その池は静かで、水鳥や鯉はおろか生き物の気配はない。

 池の端には、一メートル程の高さに等間隔で支柱が立ち、ロープがそれを繋いでいる。

 少佐はその支柱の上に、今飲み終わったお茶の空き缶を置いた。


 少佐は、何をしたかったのだろうか。そのまま缶を背にして、笑顔でこちらに戻って来る。

 大尉は少しホッとしていた。少佐が『入水自殺』でも、しようとしているのかと思っていたからだ。


 少佐は大尉の目を見ながら散策路に戻って来た。そして、隣まで来ると、今度は顎で『空き缶』を指す。

 大尉には少佐の考えが判った。なるほど。そういうことか。

『拳銃で空き缶を撃ってみろ』

 ですよね。勝手に少佐の言葉を頭で再生し、大尉は拳銃を取り出そうとしたのだが、ある訳がない。


『カーン!』

 突然金物を叩く音がして、大尉は驚く。目の前の空き缶が突然浮き上がり、高速で回転しながら宙を舞っている。

 まるで、誰かが拳銃で撃ったようにだ。いや、周りには誰もいない。スナイプ、遠距離スナイプだ。しかし銃声はしなかった。


『ガコン! カラカラァ』

「上手いなぁ」

 少佐はゴミ箱にシュートされた空き缶を見て呟くと、まるで『ほらね』とでも言うように、笑顔で大尉の方を見た。

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