表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
360/1531

失敗と成功の狭間(五十四)

「それを『琴坂琴美』がやった証拠は、あるのか?」

「ありません。それに、彼女にはアリバイがあります」

 少佐も大尉も真顔に戻っていた。大空からパラシュートで帰って来たとしたら、きっとこんな顔だ。むしろ大尉の方が真剣な目。

「そんなことも調べたのか?」

 やはり大尉は『使える男』だ。少佐は大尉を再評価する。


「はい。空軍が大学に『監視カメラの研究』と称して協力を要請しまして、寮の監視カメラの映像を全部取り寄せたそうです。少佐、そんなこと出来るんですか?」

 自分で言っておきながら、大尉は首を捻る。少佐は笑顔だ。

「あぁ。それぐらい普通だ。何しろ軍と大学は仲良しだからなっ」

 少佐が言うなら間違いない。大尉は素直に頷いた。もしまた判らないことがあったら、清ちゃんに頼もう。


「そこからですね、研究中のAIを使って『琴坂琴美』の映像を全部抽出したそうです。こんなことも? 可能なのですか?」

 少佐は『当たり前だ』とでも言うように、黙って頷く。軍は何でもやるなぁと、大尉は感心するばかりだ。

「それで?」

 聞かれた大尉の顔が曇る。どうやらその先は、とても話辛い内容のようだ。少々声のトーンが落ちる。


「琴坂琴美、彼女は『エロ動画』を見ながら、マウスをカチカチとさせ『血眼になってディスプレイを凝視していた』だけなのだそうです。部屋の画像全部が、です」

「それは本当に『エロ動画』なのか? レポートとかでは?」

 疑い深い少佐でも、そんなことに疑いを向けるのは嫌だ。それは顔を見ればひしひしと伝わって来る。


「それは私も聞きました。本人にも会いましたし。そんな娘には見えなかったのですが」

 大尉は首を捻って考える。少佐は大尉を指さして笑い出す。

「大尉の嫁だもんなぁ」

 途端に大尉は目を丸くして顔が赤くなる。まったく判り易い奴だ。


「ちょっ、ちょっと待って下さい!」

「あはは。からかってすまん。続きを聞かせてくれ」

 少佐は再び辺りを警戒しながら前を向く。まるで人に聞かれてはいけない重要事項を聞く前の、準備動作のようだ。


「はっ、はい。使っているのはマウスだけで、キーボードには触れていないので、レポートではないと」

「ふむ。なるほど。それで?」

 大尉は陸軍情報部からの報告をそのまま、高貴な少佐に伝えることはできない。少佐の説明用に言葉を選ぶ。


「それが、話の『馴れ初め』とかを全部飛ばしまして、『結合』と『フィニッシュ』のシーンだけをですね、集中的、かつ、的確に捉えて閲覧していた、そうなのでぇ。何と言うかぁ」

 語尾は濁して、恐る恐る少佐の方を見る。少佐は前を向き、そんな芸当、何回閲覧したら可能か、鋭い目で思考中のようだ。


「それはかなりの『上級者』だな。サブスク、見放題の契約者か?」

 少佐は自分で言っている質問が、何だか馬鹿らしくなってきた。


「いいえ。サブスクではなくてですね、デスクトップにダウンロード済の『エロ動画』が沢山ありまして、それを普段から『凝視している』みたいでして。いわゆる『手練れ』です」

 少佐は眉をひそめて唸る。なんだそれ。もう、想像のはるか上を行く。最早『達観』しているではないか。


「そうなのか? 本当かなぁ」

 少佐は考える。相手は手練れの女子大生。このまま大尉に任せて、大丈夫だろうか。不安しかない。

 初心な大尉の嫁として、そんな手練れが相応しいのかどうか。これも良く検討しなければならないだろう。

 きっと一週間もあれば『全部吸い取られ』て、寿命が縮みそうだ。


「それに、想定される侵入時刻のとき、我々の目の前に居たのです」

「え? 中華屋にいたときなの?」

 少佐の頭から、生気を吸い取られて『ヒラヒラになった大尉』が飛んで行く。目の前の大尉は、まだピチピチしている。安心だ。


「はい。そうなんです。その事実は『誰にも言っていない』のですが、日時を確認すると、正しくその時間でして」

 大尉も首を捻って考えている。少佐も考え始めた。


「うーむ。我々が証人になってしまったのか。いや、させられた?」

 少佐は言い直した。そうだ。最初からそれを狙っていたとしたら? 琴坂琴美は、やはり油断できない『大物』なのか。


「もう、こうなったら、尾行しますか?」

「それはダメだ! 絶・対・に、許さん!」

 次の手段を軽く聞いただけ。それなのに、強過ぎる否定を食らった。少佐が目を見開いて大尉を睨んでいる。大尉はそれにも驚いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ