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父はハッカー(三)

 牧夫は急いで自席に戻って来た。途中のゴミ箱はそっと横に片付けられていて、蹴飛ばすことはなかった。


「どうだ? 問題なかったか?」

 パソコンの画面を見ていた高田が、牧夫に声を掛ける。牧夫は歩きながら脱いでいた上着を、イスの背もたれに掛けて頷く。

「はい。特に問題はありません」

「質問も無しか?」

「はい。あぁ『インターネットに繋ぐにはどうしたら良いですか』なんて聞かれましたね」

 苦笑いしながら牧夫は答えた。


 それが『何て愚かな質問』なのか、牧夫は高田の同意が欲しい。しかし高田の答えは、同意とは違っていた。


「誰?」「はい。えっとー えーっとですね」

 講習の最後に行われた、セキュリティー教育試験の解答用紙をパラパラと捲りながら、牧夫は答えを慌てて探している。

 席順の通りに回収した回答用紙に、書かれた名前を確認した。


「新人の吉沢ですね」

「帰国子女のか」

「はい。そうです」

 どうやら吉沢という新人社員は、既に有名だったようだ。部長の耳にまで、その存在が知られているとは。

 牧夫が新人だったとき、部長に名前を覚えられるまでに三年は掛かっただろう。いや、それは既に新人ではないか。


「直ぐに荷物検査をしておけ」

「え? はい。判りました」

 高田は、牧夫の「え?」に一瞬怪訝な表情を見せたが、直ぐに従ったので『降格の指示』をぐっと堪える。

 牧夫はそんな部長の思いを知ることもなく、さっき自分を呼びに来た山崎を探す。

 女性の荷物を検査するのに、男性が行う訳にも行かない。


「やまちゃん知らない?」

「コピーじゃないですか?」

 主任の金田が即答した。金田は次の会議に備えて、資料のコピーを山崎に依頼していたのだ。

「あちゃー。そうかー」

 牧夫が困った様子を見せると、後ろから高田の声がする。


「まっきー、お前がコピーしてやれば良いだろう」

 振り返って見ると、目が笑っている。

「あ、そうですね。そうします」

 牧夫は頷いて、直ぐにコピー室へ向った。金田も席を立って、牧夫の後を追う。


 彼が牧夫の後を追ったのは、牧夫が次に何をするのか判っていたからだ。部長の席に向いた『右側の耳』が大きいのは伊達じゃない。


 もしこのまま牧夫が資料をコピーしたら、自分が主催する会議の資料が、ぐちゃぐちゃになってしまうに違いない。


 時計を見て、それだけは避けたかった。

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