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失敗と成功の狭間(五十三)

 少佐も慌てて聞いてしまったのだが、それは当然だ。

 今まで軍のシステムがダウンしてしまったことなんて、数える程しかないからだ。いや、あるんかいっ!

 それにしても、専門家部隊のサーバーダウンと、『琴坂琴美』と一体何の関係が?

 少佐は大佐の顔を覗き込んだ。しかし、大尉も混乱しているのか、目は『只今情報整理中』と表示されている。少佐はしばし待った。


「空軍情報部が琴坂琴美に『お見合い写真』と称して『調査用のUSBメモリ』を渡したそうなんです」

「そんなん、どうやって?」

 少佐の疑問はごもっともである。大尉はもう一度、説明の順序を再検討する必要がありそうだ。

「琴坂琴美の同室、岩本美里の実兄が空軍情報部に所属しておりまして、妹経由で渡したのではないかと」

「なるほど。そういう時の為の同室か。それで?」

 少佐は納得して頷いた。しかしそうなると、陸軍はやや不利だ。


「渡したUSBメモリは、パソコンに挿したらそのまま情報を収集して、空軍情報部に送信するようになっていたそうです」

「ほう。あれだろ? 『コトリンパ製』の奴か?」

「何ですか? それ、知らないです」


 大尉が知らないのも無理はない。『コトリンパ』とは、昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんが居ました。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行っている間の出来事だ。

 軍のコンピュータに侵入して掴まった『クラッカー』である。


「まぁ、今度説明してやるから。今は続きだ」

「あっはい。えーっと、それを『琴坂琴美に渡した』と報告があった日にですね、逆に空軍情報部へ侵入されてしまったそうなんです」

「そんなこと出来るのか? 琴坂琴美は『天才ハッカー』なのか?」

 少佐が『実在を確認』した『ハッカー』は、旧姓山崎の朱美ミケと、宮園武夫アルバトロスだけだ。彼らにも出来るのか?


「判りません。関連があるかも含め、現在調査中です」

 だよな。そんな奴らがウヨウヨいたら、情報部もお手上げだ。

「そうか。それで、被害は?」

 少佐が聞くと、意外にも大尉は『フッ』と噴いて笑顔になった。


「それがですね、情報部員の名義で『稟議書が提出されただけ』でして、しかもそれが、面白いと採用になるという、何でしょう? 何だか変なことになってましてぇ」

 他軍の不幸は蜜の味。そういう訳ではない所が大尉らしいが、それにしても、微妙な笑顔である。

「どんな稟議だったんだ?」

 少佐も毎日色んな稟議に目を通している。『面白いから採用』とは、ちょっと興味があるのだろう。


「何と、『訓練を兼ね、入間航空祭に向けCー2輸送機六機編隊をブルーインパルス塗装にする』でしてぇ」

 なるほど。少佐は納得した。流石『元戦闘機乗り』である。

「それって『訓練』なのか?」

 色々な訓練はあるが、飛行機のペンキを塗り替える訓練なんて、あったのだろうか。

 ちなみに塗り替えるのは、予備機も合わせて七機である。

「少佐、飛行機も戦闘区域に合わせて塗装を変えるのですよ」

「戦車みたいにか?」

 生粋の陸軍である少佐には、少々イメージが湧かなかったようだ。

「ええ、そうです。流石に『枝葉』は着けませんが」

「あはは。そうかそうか。それは一つ勉強になった。ありがとう」

「そんな、恐縮です」

 大尉はちょっと嬉しくなって、頭を掻いた。


「少佐、航空祭では『Cー2で宙返りしてから、空挺部隊を降下させる』という流れだそうです。観てみたいですねぇ」

「ミサイルを避ける訓練も、兼ねているのかね?」

「そうかもしれません」

 二人は揃って頷き、青空に想いを馳せる。軍人として関係者を装い、屋上から『視察』することもできるだろう。

 だが陸軍として、空軍に頭を下げるのは嫌でござる。


 少佐も大尉も、揃って腕組みして考えているが、流石にその『飛行展示プログラム』には、無理がある。

 予定しているのはこっち。『空挺部隊を降下させてからの宙返り』これが正解だ。

 見上げれば空挺団の士気向上のため、大きな『ハートマーク』を空に残してくれるかもしれない。


「しかし何だな。平和だなぁ」

「ええ。平和って良いですよねぇ。Cー2の件、昨日ニュースで発表になっていて、航空ファンは大盛り上がりらしいです」

 再び二人は、揃って頷いた。今度は平和に思いを馳せる。

 軍人の二人が言うのもなんだが、昔から言うではないか。


『警察と消防は、訓練だけして暇な方が良い』と。

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