失敗と成功の狭間(四十九)
「一卵性双生児の妹が、言い寄って来たら『パンパン』しますか?」
どうやら質問だけは、続いているようだ。一体第何問まであるのだろう。進は考える。あんな美人にそっくりの妹が?
「するんですね?」
しかし、琴美がそれを許さない。追い込むように質問を浴びせる。
「しません! 絶対に、しません!」
「見分けがつかないんですよ? 本当ですか?」
琴美が首を傾げて睨み付ける。進はもやもやを打ち消して必死だ。
「いやいや『何かおかしい』とか、思うでしょ?」
「思いません。『パンパン合意』した相手と、クリソツです」
進の反論に、琴美が動じる様子はない。秒で普通に答えて、首を横に振っている。進は困った。そんな美人姉妹は反則だ。
「じゃぁ、『パンパン』しますぅ。見分けが付かないんだからっ」
「ホント最低ですね。じゃぁ最後の質問です」
予想はしていたが、その通りになった。
琴美が進を見る目は、『生ごみ』を眺めるそれになってしまっている。その内、鼻をつまむかもしれない。
「何歳まで『パンパン』しますか? 年取ったら捨てますか?」
「えぇぇぇっ! そんなの、年取ったからって、捨てませんよぉ」
進は驚きながらも明確に答える。しかし琴美の心には、全く響いていないようだ。顎を突き出して、進に確認する。
「若い娘に浮気したら、それは『捨てる』ってことですからね?」
「いやいや、捨てないでしょ」
進は慌てて手を振った。すると琴美は呆れて溜息をつく。
「結婚もしていないのに、『好みの女と合意』したからって、週三で『パンパン』して、妊娠中に浮気までしていた男が?」
グッと前に出て進の目を真っ直ぐに見る。
「新たに『好みの女と合意』したら、『パンパン』するに、決まっているでしょうが! 嘘を付くなっ! 貴様は最低だ!」
タブレットを操作していた右手を前に突き出し、進を指さした。進は返す言葉がない。
一体、琴美様は、何にお怒りなのでしょうか。進は心を浄化させて普段の生活を顧みる。
可愛いと思ったあの子への想い。それは罪だったのでしょうか。
あぁ、だとしたら、私はなんて罪深い。人を容姿だけで判断し、あまつさえ、その容姿が変われば心も移り行く。
そこで進はハッと気が付く。今までの人生で『彼女』なんて、存在すらしなかったことに。
「あのぉ、私、『弓原姉妹』に興味がある訳ではなくてですね」
「あぁ? なぁにぃを今更言ってるのぉ? 報告はしますからねっ」
野太い声。琴美はもう一度楓に電話だ。あっ、繋がった。
「楓。見た目重視の、最低クズ野郎だった。結果送った。どうする? え? 会うの? マジで? 止めときなさいよぉ。あっ、楓!」
電話は一方的に切られてしまったようだ。琴美は不貞腐れて、スマホをテーブルに放り投げた。目の前の『クズ野郎』を睨む。
「あのぉ、用事があるのは『琴坂琴美』さん、貴方様なのです」
「えぇ? 私でぇすぅかぁぁっ!」
高い声。瞬時に両手を曲げて胸にあて上半身を左右に振る。残念。初めて会った時だったら『好印象』だったのに。もう遅いようだ。




