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失敗と成功の狭間(四十七)

 琴美は『チーズクリーム』を先に食べた。

 どうやら面倒なことが始まると判っていたのだろう。だから溶けてしまう前にと。きっとそうだ。

 その間に進は、テーブルにコーヒーを置いて、斜向かいに座る。

 二人は恋人に非ず。だから遠慮して、少し距離を取ったつもりだ。


 見ればテーブルには、スマホにしては大きな、パソコンにしては小さな『タブレット』が置いてある。何を見ていたのだろうか。

 進がそれを覗き込む前に、琴美が手に取る。そしてシャシャッと操作して、何かのアプリを起動したようだ。


「じゃぁ、質問していきますね」

 そう切り出したのは、琴美の方だった。

 進は慌てる。いやいや、質問したいのはこっちなんですけど?


「第いちもーん。食事はお昼ですか? 夕食ですか?」

 それを許さず、琴美の質問が先に始まってしまった。進はコーヒーを飲む暇さえない。

「じゃぁ、夕食で」

 何の質問だろうか。しかし、今から行くなら夕食しかない。


「はーい。第にもーん。お酒はありですか? なしですか?」

 夕食に酒は付き物だ。聞かれた進は咄嗟に答える。

「ありで」

 琴美が進を睨み付けた。しかし、直ぐにタブレットに視線を戻す。なんだか、第二問は『不正解』だったようだ。判らんが。


「第さんもーん。酔った勢いで『パンパン』行きますか?」

「パンパン?」

 いや、言いたいこと判るけど。それ、初めて出会った男女の会話『第三問』で聞くこと? 進は流石に眉をひそめた。

 しかし琴美は、無表情のまま質問をし続ける。


「パンパン行きますか? 行くんですか? 行くんですね?」

 ちょっとマテ。その選択肢は何かおかしい。どれも『行く』しかないではないか。

「あのぅ、行くには、双方の同意が必要だと、思いますけど?」

「同意があったら行くんですね。最低です」

 ノータイム。第三問で進の評価は『最低』になってしまった。こんなの士官候補生試験より難しいではないか。何だこれ?


「じゃぁ、次の金曜日十九時から翌朝七時まで押さえましたので」

 琴美はタブレットをテーブルに置いて、質問を終了した。

「え? 展開はやっ!」

 コーヒーは『出番はまだか』と進を見つめているが、全く出る幕はなさそうだ。これではコーヒーすら噴き出せぬ。


「連絡するんで、電話番号教えて下さい」

 そう言うが早いか、今度はスマホを取り出して琴美は電話をし始める。進は慌てて書く物を探す。いつもと違う服装なので、手帳を入れた場所が判らない。あちこちのポケットを探る。

 あった。直ぐに取り出して両面空白の頁に、自分の連絡先を書き、それをビリっと破いたときだ。どうやら琴美の電話が繋がった。


「楓。次の金曜夜七時。夕食酒あり、朝までパンパン有りだってぇ」

 そう言って琴美は進を睨んだ。連絡先を寄越せと手を伸ばす。

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