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失敗と成功の狭間(四十六)

 廊下に出て進が手を振った所で、清は進に声を掛ける。

「学食行ってみ? 『琴坂』は今頃、パフェでも食ってるから」

「そうなんですか?」

 進は頷きながらも首を傾げる。それを見た清も苦笑いで、首を傾げ始めたではないか。おいおい。適当に言っているのか?


「あぁ『新作パフェ』が出たらな、窓辺の席で食ってるからさっ」

 どうやら『琴美がパフェを食べる姿』は、大学では風景の一つになっているようだ。進は『何だそれ?』と、思わず苦笑いだ。

「いやいや、女の子だったら『新作パフェ』食べるっしょ?」

 進は『適当な情報だなぁ』と思いながらも、学食へ向かうことにして、もう一度清に手を振った。

 清は笑顔で学食の方を指さしてから、研究室に消える。


 大学で『軍事の研究をしている』と前に言っていた。だから軍についての情報も詳しいし、嫌なことも経験したのだろう。

 それでも昔と同じように接してくれたことが、進は嬉しかった。


 看板の案内通りに、進は学食へ向かう。そこでコーヒーを手にして、席を探す振りをしながら周りを見渡した。

 するとそこは変な時間だからか、コーヒーをすすりながら打ち合わせをする人達や、何も食べずに本を読む人が、ポツンポツンといるだけだ。広い学食は割と閑散としている。


 そんな中、進は窓辺の席で一人『クリーム餡蜜』を食べる『琴坂琴美』を見つけた。思わず『ブッ』っと噴き出す。

 何だ。予想通りではないか。しかし今日はどうした? 『新作クリーム餡蜜』でも、発売になったのだろうか?

 ふと入り口を振り返ると、確かに『チーズクリーム餡蜜』なるものが、新発売になっている。のぼり旗がパタパタと、はためいているではないか。驚いてコーヒーも溢しそうになると言うものだ。

 進は苦笑いで琴美の席へ向かう。琴美が席を立つ様子はない。大人しく『チーズクリーム餡蜜』に集中しているようだ。


 進はもう一度周りを見渡したが、四人席に一人で座る琴美の他に、お仲間はいない。しめしめ。町中華で見かけた『他の三人』もいないのは、丁度良いではないか。

 やはり清ちゃんに聞いてから来たのは『正解』だった。


「すいません。琴坂さんですね?」

「違いますよぉ」

 進の問いに、琴美は下を向いたまま平然と答えた。どうやら琴美にとって進は、声だけで既に『恋の対象』ではないようだ。


「教授からここで『新作パフェ』を食べているって、聞いて来たんですけど。弓原楓さんとお友達の、琴坂琴美さんですよね?」

 笑顔で進が再度聞く。それでも琴美の態度は変わらない。


「これが『パフェ』に見えます?」

 初めて顔を上げる。そして白玉を進に見せてから、パクっと食べた。やはり進は、顔を見ても琴美のタイプではなかったようだ。


「見えますけど? 新作の『クリームチーズパフェ』ですよね?」

 入り口にあるのぼり旗を指さして進むが言うと、琴美は笑った。

「ちょっ、まぁいいやぁ。そこどうぞ」

 進はお辞儀して軍帽を取ろうとしたが、今日はジャケットだった。

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