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失敗と成功の狭間(四十五)

 ということは、陸軍は『ノーマーク』なのだろう。進は『陸軍代表』として『マーク』することにする。

 一体『琴坂琴美』が『何者なのか』判らないけれど。


「しょうがないなぁ。じゃぁ上官に報告しておきますよ」

 苦笑いで進が言うと、清も苦笑いになった。

「なんだ。やっぱり身辺調査か。俺が言ったことはナイショだぞ?」

「OKOK。でも清ちゃん、何でそんなに詳しいの?」

 進の疑問は当然だろう。すると清は、他には誰もいない研究室をキョロキョロと見回してから、声をひそめる。


「寮の部屋割り決めるときな? 凄い圧力があったんだよぉ」

「何? 部屋割りとか、決める係なの?」

 嬉しそうに清を指さして言う。その手を叩き落とすように、清は右手を繰り出したが当たらずに空を切る。

「色々やってるんだよぉ。暇じゃないんだよぉ」

 そっくり返って、色々な書類を指さした。確かに凄く忙しそうだ。これもそれも、紙の良い所であろう。


「大変なんだねぇ。今度はアポ取ってから来るヨ」

 絶対に嘘だ。にやけている顔、それに目を見れば判る。

 進が『清の都合を考えて』行動してきたことなんて、一度もなかったからだ。

 突然『海行こう』とか、『虫取り行こう』とか。あぁ、『釣り行こう』とかもあったなぁ。

 そんなことを思い出していた清だったが、ふともう一つ思い出す。


「そうだ。陸軍からもな、既に『マーク』されてるからな?」

「え? 本当?」

 凄く驚いた進の顔を見て、『何だ?』と清は笑う。


「お前、海軍だろうが。そんなに驚くことじゃないだろう?」

「え? あぁまぁそうだけど。それで、どこが調べに来ているの?」

 真顔に戻って進は前のめりになる。清は口をへの字にして呆れ顔だ。そんな顔のまま顎に手を当てて首を傾げる。


「確か、ゲムラー大佐って、名乗っていたな」

「誰だよ、それ?」

「いや、ゲムラーって言ったら、ゲムラーだろ? 知らんがなぁ」

「外人?」

「いや、どう見ても日本人」

「どこの部隊よ?」

「どこだっけかなぁ。何だか変な名前の。『G部隊』だっけかな?」

 それを聞いた進の表情が曇る。それを自覚したのか、まるで隠すように一瞬で笑顔にしたのだが、少々引きつり気味だ。


「清ちゃん、『G機関』かい?」

 言われた清の顔がパッと明るくなった。これは当たりだ。


 何だよそれ。よりによってG機関かよ。

 陸軍中野学校卒業生で固めた、神出鬼没のスパイ集団。陸軍の精鋭諜報機関じゃないか。そんな所が何故女子大生をマークしてる?

 そこに『我が部隊』が首を突っ込んだらどうなるか?

 決まっている。今でもバチバチやりあっているのに。『こっちが先にマークしたんだ』と、裏で何されるか判ったもんじゃない。

 少佐の安全だって危うい。くそっ。マジかよぅ。


「あぁ、たしかそんな名前。何やってる所だ? エンジンの研究?」

「いや『知らない方が良い』所」

 にっこり笑った進の表情を見て、清は空気を読んだ。むしろ『大人になったなぁ』と、感心しきりだ。

 パッと進が席を立った。どうやら帰るようだ。清も席を立つ。

「じゃぁ、また来るよ」

「今度は、アポ取ってからな?」

 清は念を押した。進はやはり忘れていたようだ。パッと笑顔になった表情を見れば判る。

 やっぱり何も変わっていない。進は進のようだ。


「アポ取ってから来れば、飯でも奢ったのにぃ」

 ニッコリ笑って清が言うと、進の目が大きくなった。

「あっそう来たか! じゃぁ、今度『飯行こう』って来るわ!」

 駄目だ。全然判ってない。それは『アポ取り』とは言わぬ。

 しかし、入り口に向かって進は歩き始めていた。仕方のない奴だ。


「お前、『加賀嬢』とは、上手く付き合っているのか?」

 進の背中に向かって清は聞いた。昔から『曲芸飛行』に憧れていた進は、夢を叶えて今では空母の『戦闘機乗り』だった筈だ。

「あぁ、上手くやってるよ」

 立ち止まって進はちらりと振り返り、笑顔を見せた。それを見て清は安心する。また昔のように飛行機を観に行こう。


「今度、サンダーバーズが百里基地に来たら、見に行こうぜ?」

 パッと進が振り返る。物凄い苦笑いだ。ヒュッと清を指さした。

「おいおい。入間基地にブルーインパルスの間違いじゃないのか?」

「あっ、そうかも? まぁ、良いじゃねえかよ。お前細かいぞ?」

 清は進の肩をパンパンと勢い良く叩いて、廊下に追い出した。

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