失敗と成功の狭間(四十四)
「どういうことですか?」
進は身を乗り出して清に聞く。腑に落ちないセリフだ。
清は昔から『行け行けドンドン派』だった筈なのに、『止めといた方が良い』とは、どういう風の吹き回し?
「お前、この子達のこと、何て呼ばれているか、知らないのか?」
「知る訳ないじゃないですかぁ」
進は苦笑いで両手を広げた。その様子を見て、清は大きな溜息をついた。
苦笑いで顎を突き上げ、進に言い放つ。
「お前、海軍だろ? それ位、知らないのかぁ?」
薄ら笑いに変わって、椅子に寄り掛かった。そんなことを言われたって、進に判る筈がない。
まぁ、今は陸軍なのは、ナイショにしておこう。
「え? 軍の関係者なんですか? まぁ、知りませんけど」
進の答えを聞いて、清はレポートの山に向かう。多分同じ日に提出したものがあるはずだ。
ガサガサと探していると、見覚えのある名前を見つけて、やっぱりなと思って手に取った。それをチラっと進に見せる。
進は名前を見た。『山本絵理』『岩本美里』『弓原楓』『琴坂琴美』一見普通だ。いや『弓原』は、嫌な思い出がある。まさか?
「いいか? この四人組はな? 『魔のカルテット』と呼ばれているんだ。もう、とにかく要注意だ。お前なんかが関わっちゃいかん」
清は渋い顔をして首を横に振った。そしてじっと進を睨み付ける。
「いや、名前だけじゃ判りませんよ」
「判れよ。しょうがない奴だなぁ」
清はイライラしながら名前を一人づつ指さした。
「良いか? 山本絵理。海軍中将の娘。三代遡って全員海軍だ」
「え? 山本中将の娘さん?」
「そうだよぉ。お前の上司の上司の上司の上司の娘さんだよぉ」
「いや、どんだけ上なんですかぁ」
「知らんよぉ。そんで、岩本美里。空軍少将の娘。こっちも三代遡って全員空軍。まぁ、ご先祖は海軍航空隊だが」
進は目を丸くして驚く。すると、この『弓原楓』は?
「でだ。この弓原楓が一番怖い。吉野財閥自衛隊総帥の娘だよぉ」
「あっ、その『総帥様』に、会ったこと有ります!」
やっぱりと思い、苦い顔をして清に報告した。清は驚く。
「何だ? お前ぇ、良く生きてたなぁ。姿を見た者は全員逝くって」
「そうなんですよぉ! え? マジで? こぉわっ!」
当時の様子を話したくなったのだが、それは止める。
「良いか? 海軍、空軍、吉野財閥から『ご指名で同室』なんて、聞いたことあるか? ないだろぅ? それが、この『琴坂琴美』なんだよぉ。意味判らん」
琴美の名前をタンタンと叩きながら、清はしかめっ面だ。
「そうなんですかぁ。所で、陸軍はどうしたんですか?」
進が素朴な疑問をぶつけた。すると清は鼻でフッと笑う。
「陸軍から送られてきた子は『素行不良』でなっ、落ちたっ!」
陸軍もマークしてたんかい! もう、苦笑いするしかない。




