父はハッカー(二)
牧夫は会議室を見渡している。もう質問はないようだ。
教育用ビデオを見せた後、補足説明をして一丁あがり。『早く本業に戻りたい』との思いが一番強いのは、どうやら牧夫のようだ。
「どうしても『インターネット』に繋ぎたい時は、どうすれば良いのですか?」
日本で、インターネットなんかに繋ぐ奴が居るのだろうか?
牧夫の顔にはそう書いてあった。日本人なら、日本語で情報が記載されているジャパネット内だけで十分だ。
インターネットで情報を探すなんて、キンキラキンの装飾品で身を纏い、スラム街に徒歩で踏み込むようなものだ。
「どーしても? どーしても繋ぎたい場合は、上司と一緒に一階にあるグルグールにでも行ってください」
手を挙げた帰国子女は頷いて、手を降ろした。
グルグールとはアメリカの会社で、日本国内においてインターネット検索サービスを提供している。
街中にネットカフェも経営していて、そこから全世界へと接続し、あらゆる情報を取得することができるのだ。
意外と知られていないことだが、ジャパネット内にもサイトを持っている。その事実を知っているのはほんの一部であろう。
何故なら、グルグールと言えば『インターネットの代名詞』となっており、そこに接続することは、ジャパネットから外に出ることを意味しているからだ。
日本人が接続するのは、もっぱらヤホーの方だろう。
グルグールはインターネットのサイトと区別を付ける為に、ジャパネット内のサイトはロゴマークを変えている。
しかし、国内線の飛行機に金髪の客室乗務員がいるようなもので、利用者は緊張してしまうのか、アクセス数は伸びていない。
インターネットのグルグールと、ジャパネット内のサイトは接続されていないにも関わらずだ。
「グルグールに行くときは、ペアシートを予約して下さいねー」
牧夫は薄笑いを浮かべ、冗談交じりに本当のことを言った。
会議室の中で、インターネットに接続しようとしている者は、その帰国子女以外はいなさそうだ。
それもそうだろう。
コンピュータウイルスに対抗すると言われるワクチンソフトは、日本国内、正確には、ジャパネットに接続するパソコンについてはインストールされていない。
そんなパソコンをインターネットへの入り口、レッドジャックに接続したらどうなるか。
誰だって、雨にあたったらどうなるか判っている様に、あえてそんなことをする者はいないのだ。




