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失敗と成功の狭間(四十)

 マンゴーパフェを完食した楓が、学食から研究室に帰って来た。

 ガラス窓越しに見えた琴美が、腕を組んで考えている最中だ。そっと眺める。真面目に何を考えているのだろう。

 まぁ、きっと『マンゴーパフェの報復』を、考えているのだろう。しょうもない奴だ。楓は一人でにやける。


 すると琴美が、スッと立ち上がり窓辺へ向かう。手には一つづつ、合わせて二つの試料を握りしめている。

 窓辺に立つと、それを太陽に透かした。片方づつ近付けたり、遠くしたりして、じっと覗き込んでいる。

 どうやら肉眼で観察しているようだ。と、思ったら、ツカツカと歩き、それをゴミ箱に捨てた。何をしているんだか。


 琴美が振り返ったので、慌てて楓は隠れる。一瞬見えた琴美の顔は、いつもの特徴のある『困った顔』だった。本当に判り易い奴だ。

 楓は席へ戻る秒数を想定し、心の中で数え始める。

 着席したタイミングで研究室に入り、何も見ていない風を装おう。それが作戦だ。三、ニ、一、ゼロ。


『どっこいしょぉ。あぁっ。ちっきしょぉ。わっかんねぇ。かぁっ』

「フッ」

 思わず楓は噴き出してしまった。

 何なの? 席へ着くまでの秒数を数える必要なんて、全くなかったじゃん。楓は仕方なく扉を開ける。


「マンゴーパフェ、サイコーッ! ヒューッ!」

 琴美が振り向いて楓を睨み付けた。楓とは対照的だ。一応補足しておくと『美人とそうでない』という意味ではなくて、表情の方だ。


「おかえりぃ。遅かったじゃん」

 琴美は目を細くして、少々の恨みも込めている。楓が全然平気な顔をして琴美に近付く。琴美は椅子に座ったまま楓を見上げた。


「そんな顔しないのぉ。可愛い顔が台無しだよぉ?」

 楓は両手の平を琴美のホッペに押し当てて、グリグリ始めた。

 おやおや。これには琴美の両親もびっくり。『福笑い』のような酷い顔になってしまっているではないか。


「ちょっとぉ、止めてよぉ」

 琴美が笑い出して楓の手を振り払う。しかし、それで『マンゴーパフェ』の恨みが収まる訳ではない。食い物の恨みは恐ろしいのだ。


「おぉ? 怒ってるねぇ。じゃぁこれ、あげるっ」

 楓がスッと差し出したのは、レジ横にある焼き菓子『フィナンシェ』だった。琴美の顔がパッと明るくなり、目が輝きだす。


「やった! サンキュッ! シャーッ」

 手の動きも速い。猫のようにサッと楓の手から奪い取った。取られた楓は、シュっと引っ込めようとしていたのだろう。苦笑いだ。


「ねぇ、四番と九番はどうしたの?」

 楓は試料の空き番を指さした。琴美は早速フィナンシェを食べようとしている。楓はじっと琴美の様子を観察。すると開封する動きがピタッと止まった。琴美が楓を見上げて、ニッコリと笑う。


「どうって。元々『欠番』でしょ? 楓が培養失敗した奴ジャン!」

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