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失敗と成功の狭間(三十九)

 琴美は試験を終えて、実験結果をまとめていた。それで頭を抱えているのには、理由がある。

 一つは、共同研究者の楓が学食で頼んだ『マンゴーパフェ』を、一口もくれなかったこと。

 いや、それは良い。元々『利息』だった訳だし。ちょっとズルいと思うだけで、悩む程ではない。


 ちきしょう。くやちぃ。本当に、くやちぃ。

 あぁ、こんな感情は久し振りだ。

 本日新発売の『マンゴーパフェ』。宮崎産を使った本格派だった。

 そもそも、最後の一個を先に注文したのは私だったのに。何だよ、『利息』って。これじゃまるで『横取り』じゃないか。

 あぁ、芳醇な香り。あれは、絶対に完熟だ。あっまぁあいマンゴーじゃないか。色艶も最高、申し分なし。

 それでいて、クリームと交互の多層構造を成し、下までぎっちり。


『フレークが出てきたら、一口あげるぅ』


 出て来ねぇよ! どう見ても、下までマンゴーぎっちりタイプの、本格パフェだったじゃんかよっ!


 琴美は椅子の背もたれに寄り掛かり、頭を掻きむしる。

 それは実験結果には、何ら関係ない。関係するのは、試料番号『四』と『九』の結果の方である。


「どういうことなの? いてっ」

 そう言って琴美は、自分の頬をつねる。夢ではなかったようだ。


 琴美と楓は、様々な人種の皮膚細胞を培養し、ある程度の大きさになった所で雨中に晒し、溶けるかどうかの実験を行った。

 確かにヨーロッパ大陸、アフリカ大陸、アメリカ大陸の人類は『雨耐性』がある。それはまぁ、当然と言えば当然の結果である。

 もちろんアジア大陸の人類も『雨耐性』を保持していた。結局の所、雨にうたれたら溶けるのは『日本人』だけだった。


 そこで琴美と楓は、今回追試を行ったのだ。

 今度は日本の地域別に皮膚細胞を集めた。それを再び培養して大きくし、再び雨中に晒したのだ。

 都合により『東京都』の比率が高くなってしまったが、それはやむを得ない。それに対し『千葉県』の比率は、人口統計の比率より、低くなってしまった。

 まぁ、それもやむを得ないだろう。

 問題は、その数少ない『千葉県』産の試料が、『ノイズ』となってしまったことだ。


「培養に失敗して『ガン化』しちゃったのかしら?」


 そう呟いて頭を捻った。そのまま『色々なガンの可能性』を考えるが、全部否定して、今度は首を横に振る。

 絶対に『ガン化』はない。まるで自分のことのように、ちゃんと顕微鏡で『健康優良』を確認したし。

 試料番号『四』を右手、『九』を左手に持ち、琴美は立ち上がった。窓辺で透かしてみるが、特に異常はない。


「何で『溶けなかった』のかしら?」

 琴美は気持ち悪くなり、自分の皮膚から作製した試料を捨てた。

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