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失敗と成功の狭間(三十八)

 少佐と大尉の二人は、焼き鳥屋で『仕事の話』を続けていた。

 お通しとビールで、ねぎま、つくね、ハツ、モツ、うずらの到着を待つ。大尉が少佐のコップに、ビールを注いでいる。


「少佐、やっぱり私が女性のファッションについて、それとなく聞くのは無理があると思います」

 大尉は自分のコップにもビールを注ぐ。そして、サッと持ち上げて少佐のグラスと『カチン』と合わせる。

 大尉に注がれたビールを一口飲んで、少佐は続きを話す。


「そうだなぁ。やはり『一般的』なことの方が良いか」

「そうですね。その方が聞き易いです」

「うーん」

 少佐は腕を組んで考え始めた。その間に大尉はビールを飲んで、お通しを突っつく。


「そうだ。江戸城をな『こうきょ』と言うそうだ」

「こ、こうきょ? 公共? 聞き慣れない言葉ですね」

 不思議な国、日本国。世界遺産でもある江戸城を、勝手に改名してしまったのだろうか。


「何かな、あれだ。そうそう、東京が『首都』になったそうだ。だから陛下のお住まいも東京に移ったと。そう言うことだ。うん」

 しかしそれを聞いて、大尉は直ぐに意見具申する。

「だったら、『御所』でしょう? 『東京御所』とか言えば?」

 少佐も『あっ、そうかも』と思ったのだろう。二人は腕を組んで考え始めた。しかしだからと言って、正解が判る筈がない。


「まぁ『こうきょ』って言うんだから、仕方ないだろう?」

「首都が東京って言うのも驚きですね。何でわざわざ朝廷が、京都から『都落ち』しないと、いけなかったんですかねぇ?」

「サッパリ判らん」

 少佐はビールを一気に飲み干した。大尉がサッと注ぐ。


「そうだ。東京で思い出した。東海道本線の始発が『東京』らしい」

 大尉はビール瓶を置きながら、まゆをひそめる。

「『新橋』を『東京』に改名しちゃったんですか?」

 大尉がすっとんきょな声を挙げた。少佐は笑う。


「そうしたら、鉄道唱歌の一番も、変えないといかんなぁ」

「そうなりますよねぇ。あっ、でも少佐、駅が増えても歌詞は変更していませんから、細かいことは気にしないのかもしれません」

 少佐はポンと手を打って、納得する。

「そうだよ。『東海道新幹線』というのが出来て、東海道線は熱海を通るようになったそうだ」

 大尉は頭を傾けて考える。熱海は山と海に挟まれた温泉郷。鉄道で山を越えるなんて、碓氷峠でも苦労しているのに?


「良く解りませんけど、新幹線って凄いんですねぇ」

「あぁ。時速二百キロで走るらしい。大阪まで三時間とか」

 少佐は、二百のブイサインの後、指を三本立てて説明する。しかし大尉は、『だからどうした?』と、不思議な顔をするだけだ。


「大阪まで行くんだったら、飛行機で行きますよね?」

「そこだよなぁ! 何でわざわざ列車で行くのか、判らんよなぁ」

 大尉の指摘に、少佐は腕を振って納得する。

 まっ、先日青森から東京まで『貨物列車』で帰って来た輩が言う言葉ではないと思うのだが。


 この世界、飛行機が発達しているのだ。

 例えば千葉県内の空港だけで、柏、藤ヶ谷、五井、下志津、誉田、東金、香取、根型、木更津、茂原、太東、洲ノ埼、館山と、十三カ所もある。

 そこからビジネスジェットで、何処でも行けると言うのに。


「やっぱり『世界が違う』んですねぇ」

 しみじみと大尉が言う。つくねは大尉の好物らしく、二本目を口にしている最中だ。少佐は『まぁ良いか』の顔になる。


「そうだよなぁ。『第二の国歌』と言われていた『愛国行進曲』も、今は歌詞さえ不明だからなぁ」

「そぉふぁんですか?」

 不思議そうに首を傾けながら、大尉はつくねを飲み込んだ。

「どんな歌なんですか?」

 聞かれた少佐は、少々照れてニヤリと笑い、ビールを一口飲んだ。

「知らんのか? まぁそうだよなぁ。こんな曲だ」

 そう言って少佐は『愛国行進曲』とされる歌を歌い出す。


『見よ父ちゃんの禿げ頭♪ ピィカピカ光る禿げ頭♪

 頭の上で運動会 滑って転んで一等賞♪』


「何ですか? その歌詞は! それで『第二の国歌』なんですか?」

 大尉はビールを置いて、テーブルを叩いて笑い出した。

「仕方ないだろう? これしか残っていないんだからぁ」

 少佐は子供のような笑顔になって反論し、自分の頭を押さえた。

 大丈夫。まだ禿げてはいない。

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