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失敗と成功の狭間(三十七)

「それにな、豊田とよだ自動車を『トヨタ』と読むんだ」

「濁点がないんですか?」

 少し不思議そうに大尉が聞き直す。少佐は『そうそう』と指を振り、直ぐに頷いた。説明を付け加える。


豊田とよだ自動織機の子会社で、社長も豊田よとださんなのになっ。不思議だよなぁ」

「日本国からの人は、全員『トヨタ』と、そう読むんですか?」

 大尉が眉をひそめ、首も曲げて確認した。少佐も首を傾げている。

「日本だけじゃなくてな、世界中でそう読むらしい」

「世界中で? 自動車を輸出しているんですか?」

「そうなんだよ。それも謎でなぁ。何処に売るんだよなぁ」

「ですよねぇ。『ブロック経済』って、知らないんですかねぇ」

 二人は自分達の説明納得して、自ら頷いた。

「あぁ。ホントそうなんだよ。でも、日本国からと判別するには、凄く判り易いだろう?」

「そう言われると、そうですねぇ。うん。確かにそうだ」

 大尉はとりあえず、記憶しておくことにする。


「あとな『五日はクラウン』と言って、毎月五日は、だな。皆クラウンに乗る? らしい、とか?」

 説明した少佐も苦笑いで、首を傾げているではないか。それで大尉が判る筈もない。

「どういうことですか? タクシーに乗るとか?」

 不思議な説明に、大尉は目をパチクリさせた。

「さっぱり判らん。まぁ、最近は日本国からの人が貴重でな。公式記録にあるのは、昭和六十年頃だからなぁ」

「ちょっと古いんですね」

「そうなんだよなぁ。だから貴重なんだけどな」

「なるほど。でも、面白い世界なんですねぇ」

 それには少佐も同意して頷く。そして、思い出したように情報を付け加える。


「あとな、彗星の如く現れた、その名も『スバル』という自動車会社があるそうだ」

 大尉も車は好きだが、そんなメーカーは聞いたことがない。

「知らないですねぇ。日本の自動車会社と言えば、日産、豊田、松田、日野、いすゞ、ダイハツ、鈴木、いっぱいありますけど」

 少佐は首を縦に振りながら同意している。出て来なかったメーカーについては、やはり別格なのだ。


「一番は、やっぱり三菱だもんなぁ」

「そりゃそうですよ。天下の三菱重工がやってるんですから」

 二人共、それには同意だ。軍用車から商用車まで幅広いラインナップで、日本中を走り回っている。

 二人共腕を組み、改めて首を傾げている。少佐がピンと来た。


「そうだ! スバルは『農道のポルシェ』という車を、作っているらしいぞ?」

 言われた大尉は両手で頭を掻きむしる。もう、意味が判らない。

「ポルシェのライセンス生産でも、しているんですか?」

「だとしても『ポルシェ』って車種を作っては、なぁ?」

「ですよねぇ。『農道の』って何? 『軽トラ』なら判りますけど」

 二人の脳裏に、『軽トラ』が爆音を響かせて疾走を始める。

 四速・時速七十キロに達した所で、少佐が我に返った。


「いやいや大尉、軽トラで『アウトバーン』は、無理だと思うぞ?」

「ですよねぇ!」

 大尉が指を振りながら少佐に同意する。たちまち二人の脳裏から、軽トラが疾走するシーンは消えてしまったようだ。


「後な、日産に『スカイライン』という、凄い車があるらしい」

「そんな車種はありませんよ。私『フェアレディZ』なら買おうと思って調べたことありますけど。それの間違いじゃないですか?」

 不思議そうに大尉が少佐に聞く。少佐は直ぐに手を横に振った。

「いやいや、それはそれ、これはこれだ」

 大尉は、やっぱり判らない。しかし、ふと気が付いて少佐に聞く。


「ところで少佐、相手は『女の子』だから、車関係は、あんまり詳しくないのではないでしょうか? 一応聞きますが」

 少佐はハッとした顔になる。少佐も車好きだった。

「あっ、それはそうだなぁ。ファッション関係の方が、良いかぁ」

「きっとそうですよ!」

 大尉は目を輝かせて同意する。

 話しを聞くにしても、車関係の話は、全然意味が判らないことだらけだ。どういう文脈だったら、それとなく聞くことができようか。

 それを考えるだけで頭が痛い。


 その間に少佐は『ファッション』について考え、思い出したように、ゆっくりと言う。


「最新ファッションは、とっくりのセーターに、チャンピオンベルト、コールテンのラッパズボンだ!」

 大尉は眉をひそめる。いつの時代の流行なのだ?


 どうやら『ファション』関係も、望み薄のようだ。

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