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失敗と成功の狭間(三十五)

 少佐と大尉が店の外に出ると、涼しい風が酔いを醒ます。

 少し前を、さっきの女子大生四人、酔っ払いでもないのにフラフラと歩いている。一人は凄くご機嫌なようだ。


「あの子は『日本国』から来た娘のようだな」

 そう言って少佐が、琴美をチラっと指さした。

 聞こえて来た歌は、今度は『同期の桜』だ。肩を組んで歌っているが、飲み屋街の出口へ向かっている。お家に帰るのだろう。


「少佐『日本国』って、ココですよ?」

 大尉は地面を指さした。少佐は苦笑いだ。ここにも『ご機嫌』なのがいたと思ってしまったのだろう。

「大尉は『平行世界』を知らないのかい?」

「平行世界でありますか? お隣にある世界でありますか?」

 大尉はそう言って、両手を『トン』と空中で動かして隣を示す。少佐は『そうそう』と頷いた。


「この世界にはな。色んな平行世界から、色んな人達が行き来しているんだ。知らなかっただろう?」

「そうなんですか? 知らないです」

 酔いが覚めるように、大尉は目を丸くした。少佐は少し遠くなった琴美を、もう一度チラッと指さした。


「あの娘が歌っていた歌な。『露営の歌』と言うんだ。知っているかね?」

「知らないです」

「じゃぁ、さっき歌っていたのは『同期の桜』だが、それは?」

「聞いたことはあるけど、歌ったことはありません」

 大尉は首を横に曲げている。少佐は頷く。


「平行世界の『日本国』ではな。『軍歌ブーム』があったんだ」

「へぇ。そんな『ブーム』があるんですねぇ」

「あぁ。当時は『最終戦争』まっただ中でな。国威発揚の意図もあったのだと思うが」

 少佐は大尉の方を見て、肩を竦めた。

「最終戦争って、随分物騒ですね。まるで核戦争のような?」

「いや、実際、核戦争だったそうだ」

 少佐は頷いて直ぐに答える。大尉は驚いた。

「本当ですか?」


「ああ。日本は二百カ国以上も敵にまわし、日本全土が空襲で焼かれてしまった。一晩で十万人以上も亡くなった都市もあるそうだ。挙句、広島と小倉に核が撃ち込まれて、敗戦となった」

 大尉の目が驚きの余り、まん丸になっている。


「二百カ国って、全世界じゃないですか!」

「そうだ。何でそうなったのか誰も知らないのだ。学校で教えておけと言いたい。でもそれで『大日本帝国』は滅んでしまい、『日本国』となって今に至る。そういう平行世界があるのだよ」

「怖い世の中ですねぇ。この世界で良かったぁ」

「あぁ。核戦争を生き抜き、戦後の焼け野原も生き抜いて来た。そういう『タフな世界』を経験しているのだよ。凄いだろう?」

 大尉は角を曲がって行く琴美を見て、『なるほど。この世界に来て、楽しそうにしているなぁ』と、思っていた。

 しかし、ふと疑問に思って、少佐に質問する。


「どうしてあの娘が、その『日本国』からだと、判ったんですか?」

「それはな。この世界にない、『露営の歌』を歌っていたからだよ」

 大尉の質問に、少佐は直ぐに答えた。そして話を続ける。


「その『日本国』はな、中国東北部に進出したそうなんだ」

「中国? 地方の? 東北部? 島根辺りですか?」

「ブッ」

 少佐は噴き出してしまった。眉をひそめて注意する。

「それを言うなら鳥取の方が東だろう! 美保基地に飛ばすぞっ!」

「すいません! 間違えました! 勘弁して下さい!」

「まぁ、あそこは空軍だしな。いいか? 中国地方じゃなくて、中国大陸の東北部。今の清国がある所だよ」

 やれやれ。説明が面倒臭い。

「あぁ、支那大陸ですか。へぇぇ」

 それでも大尉は判ってくれたようだ。少佐もひと安心である。


 この世界の日本は、中国大陸に進出しなかった。

 いや、出来なかったと言った方が良いだろう。何しろ軍艦が全部、沈められてしまった時期があったのだから。

 それに、この世界では『平行世界』からの情報を集め、大いに参考としていた。だから大分異なる世界情勢とは言え、『少し先の未来』を、見通すことが出来たのだ。


「その『露営の歌』はな、中国大陸での戦闘を歌った軍歌なんだ」

「あぁ、なるほど! 中国大陸で戦闘は、していませんもんねぇ」

 大尉も納得して頷いた。少佐は、女子大生が見えなくなった角を見て話し始める。


「だから『日本国』からの賓客は、調べがいがある」

 そう言って少佐は、ニヤリと笑った。

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