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失敗と成功の狭間(三十四)

 少佐と大尉が席を立ち、お会計にやってきた。

 すると先にお会計をしている女子大生四人組がいて、しばし待つことにする。


「楓ぇぇ。楓様ぁ。お願いですじゃぁ。現金貸して下せぇ」

 どうやら散々飲んで食って、持ち合わせがないようだ。

「琴美ぃ。あんた『臨時収入があった』って、言ってたじゃない」

「そうだよ。ラーメン・餃子じゃなくて、一品行ってたじゃん」

 隣の真面目そうな子が、財布を忘れたと思われる琴美に、腕を振って指摘している。

 まぁ、良いから早くして欲しい所だ。


「ラーメン屋に行くって言ったら、現金用意しないとぉ」

 何だかお姉さんっぽい人からも、呆れ顔で言われてしまっているではないか。

「忘れてたんだよぅ。楓ぇ。頼むよぅ」

 泣きそうな、それでも笑っているかのような顔。きっと、いつものことなのだろう。ご主人も苦笑いで、成り行きを見守っている。


「じゃぁ、利息貰うからねぇ」

 楓が笑いながら琴美に宣言すると、琴美がパッと頭を下げる。

「ありがとうございます!」

 肩まで伸びている髪が、パッと楓の方に降り掛かる。苦笑いでそれを避けている。そして、サイフから万札を取り出した。


「お幾らですか?」

「えーっと、味噌チャーシュー、天津飯、パーコー麺、餃子三つ、レバニラ、回鍋肉、カニ炒飯、ザーサイ、コーラ四本、ジャンボシューマイ、杏仁豆腐三つ、胡麻団子。で、消費税っと。合計、九千二百九十五円です」

 楓が頷いて、手にした万札をご主人に渡すと、おつりを受け取った。それを見た絵理が『二人分』と言って自分と美里を指さし、五千円を楓に渡す。

 美里が二千五百円を絵理に渡している。どうやら絵理は、細かいのが無かったようだ。

 ごそごそと財布に現金をしまうのを、今は支払いを逃れた能天気な娘が、ご機嫌で『露営の歌』の替え歌を歌っている。


「琴美、明日学食で『パフェ』だからねぇ」

 変な選曲と思っているのだろう。にやけ顔で指さされている。言われた琴美は歌うのを止め、素直に頷いた。


「お代官様ぁ。ありがとうごぜえますだ。これで冬を越せますわぁ」

 琴美がおどけて言うと、千鳥足で外へ向かって行く。

 お会計時に聞こえた注文履歴によると、『お酒』は注文していなかったはずなのに、面白い子達だ。

「ごちそうさまでしたぁ」「ごちそうさまぁ」

「おやすみなさぁい」「いよっ! また来るよっ!」

 賑やかな集団が店を出て行った。


 待たされた少佐は、財布から万札を出してご主人に聞く。

「幾ら? 足りる?」

「八千七百ぅ、五十二円です」

「そう。じゃぁこれで。お釣りは良いよ。ごちそうさま」

 少佐の会計は秒で終わる。その間大尉は、頭を深く、ふかぁく、下げていた。

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