失敗と成功の狭間(三十)
統計上は、戦争で死ぬ人より自殺者の方が多いとは。だからと言って、戦争を肯定する訳には行かない。
琴美は目の前の友人が、若くして死ぬのを体験したくはない。
そう思っていると、ふと、何処だったか『特攻隊員が書き残した遺書』の展示を思い出す。家族で観光に出かけたときにふと立ち寄った、小さな記念館の展示だった。
中学生だった琴美から見ても、それは随分と『大人』の文章であったことを覚えている。あと数年勉強したとして、果たしてこんな『遺書』を、家族に残せるようになれるだろうか。
いや、無理だろう。先ず達筆だし、まったく自信がない。
惜しむべきだろう。そんな優秀な人達が、次々と戦地で散って行ったのだ。こんな『あんぽんたん』に、この国の未来を託して。
顧みて今の自分は、いや、比較するのは、申し訳ない。
「私は、みんなを『一生の友達』だと思っているし、この先も一緒に年取ってさ、時々集まって『旦那の愚痴』とかを言い合いながらさ、おせんべいにお茶飲んで『あぁ』とか言ってさ、いつまでも、笑っていたいんだよ」
琴美の提案に、乗るものはいなかった。笑うのを止めて、琴美を見つめ、慰めるように軽く頷くだけだ。
絵理は、どうしたものかと思っていた。
ハッカー『コトコト』について行動を調査し、可能であれば海軍のコントロール下に置くように指示されて、この大学にやってきた。
別に『一生のお友達』をつくるために、大学へ来た訳ではない。
しかも、目の前の『コトコト』は、果たして本物か? 『コトコト』のハッカーらしい所は、見たことがない。怪しいではないか。
美里はこの後、どうしようかと思っていた。
ハッカー『コトコト』について行動を調査し、可能であれば空軍のコントロール下に置くように指示されて、この大学にやってきた。
別に『一生のお友達』をつくるために、大学へ来た訳ではない。
しかも、目の前の『コトコト』は、果たして本物か? 『コトコト』のハッカーらしい所は、見たことがない。怪しいではないか。
楓は琴美を見て、これが『日本国』の民かと思っていた。
戦争には『非協力的』で、全力で全否定。その割には、数値や実績には無頓着。押しに弱く、調和を重んじて直ぐに妥協する。
面白い。実に面白いではないか。
だから『雨に溶ける』も、『ガリソンが体に悪い』も、徹底的に調べ、『軍事機密』などお構いなしに『公表』してしまうだろう。
是非、吉野財閥軍のコントロール下に置きたい。『コトコト』であろうとなかろうと、それは関係ない。
それに、このまま731部隊で『実験体』にされるくらいなら、家で対731部隊への『先鋒』になって欲しい。
「そうだねぇ。私は琴美の意見に、反対ではないかなぁ」
沈黙を破って意見を口にしたのは、楓だった。
「え? どっち? 何か問題点でも、あるの?」
琴美が楓に聞く。楓はそっくり返りながら、口をへの字に曲げる。
「だってさ、年取ったら『おせんべい』は、辛くない? 歯が」
硬いおせんべいをかじる振りを見て、琴美は慌てて考える。
「あれだっ! 『濡れせんべい』なら、大丈夫だよ!」




