失敗と成功の狭間(二十八)
「財閥って、軍隊持ってるの?」
またまた琴美の素っ頓狂な声。ガタンと立ち上がりそうだ。
他の三人が『落ち着け』と、むしろ抑える側に回らないと、琴美が壊れそうだ。
「海外拠点とか紛争地域に近い所はさ、自衛するしかないじゃん?」
「そうそう。マジの軍隊が出て行くと、戦争になっちゃうじゃん」
「あぁ、そ、そう? なんだ?」
琴美は首を傾げている。まだ『判っていない』と見た絵理と美里が、説明を続ける。
「委任統治領への輸送とか、そういうのも狙われるし」
「そうだよ。マラッカ海峡とか、ホルムズ海峡とか、護衛無しで、どうやって通るのさぁ。海賊出るんだよ?」
マジ顔で説明されて、琴美は納得した。ような気になる。
「自衛隊派遣しないの?」
うっかりこの世界では『使用禁止のワード』を口にしてしまった。ほらやっぱり、絵理と美里は目をパチクリしてしているではないか。
「いや、だから財閥は『自衛隊』を、持っているんでしょうがぁ」
「あぁっ、そっ、そぉゆぅこぉとぉぉ」
日本語って便利だなぁと思いながら、琴美は誤魔化した。絵理も美里も苦笑いだが、会話としては成立しただろう。
何か言われる前に、琴美から会話を畳みかける。
「で、でも、でもさ、『自衛隊』は『軍隊』じゃ、ないんだよね?」
だとしても、その質問は何だ。憲法解釈じゃあるまいし。
まったく、何を言っているんだろうと思いながらも、琴美は聞いた。いや、聞いてしまった。
ほら見ろ。皆、顔を見合わせて『シーン』と、なってしまったではないか。
楓なんて、苦笑いになっているし。
楓がもう一度前のめりに出て来て、琴美に説明する。
「良い? 琴美。そんな言葉遊びが通じるのは、日本国内だけだよ? 英語に翻訳したら、みんな『army』。軍隊なんだよ?」
琴美は目を丸くする。そんな筈はないではないか。
確か『自衛隊』の英語訳だって、あった筈だ。
「そうなの? 『日本の自衛隊』は英訳すると『日本軍』なの?」
それを聞いた絵理と美里は『ブッ』っと吹き出した。
「いつから『日本の』自衛隊になったのよ。『財閥の』でしょ?」
言われた琴美はハッとする。
「おぉ、そ、そうでしたぁ。財閥のでしたぁ。何か混ざっちゃったっ」
琴美は頭を掻いて誤魔化す。絵理が溜息後に説明をする。
「面白いねぇ。あのね、ミサイルや機関銃向けてさ、『Self-Defense Forces』なんて言ったって、海賊には、通じないでしょ?」
首を横にしながら、畳みかけるように言う。
「そうなんだ」
「そうなんですよ。ねぇ楓」
「そうそう。だから判り易く『軍隊だぞっ』って、言うのよぉ」
なるほど。だとしても琴美は、渋い顔で納得せざるを得ない。




