失敗と成功の狭間(二十五)
テーブルの上は、さながら宴会のようだ。
これで回転するテーブルだったなら、と思うかもしれないが、ここは町中華。家族団らん用にあしらわれた、少し広目のソファー席があるだけで、十分だと思わねばならぬだろう。
「カニ炒飯、美味いねぇ」
「だねぇ。お代わりしても良い位だよ」
「済まないねぇ。パーコーって、最初から揚げてあるんだねぇ」
楓が取り分けたカニ炒飯を、四人は仲良く食べている。
「私の方に、カニ、少なくね?」
「そうかなぁ。味見した後、均等に分けたけど?」
「そうなのぉ? ゲフッ」
楓の説明に、琴美は半分納得して頷いた。コーラを注がれるままに飲んだからか、ゲップが凄い。
「兄貴の写真、見た?」
「ん? あぁ、見た見た。結構カッコイイお兄さんじゃん」
琴美が褒めたからか、美里が笑顔になった。カニ炒飯を食べ終わって、パーコー麺をすすっている。
「で、どっちにすんの?」
楓が絵理と美里を交互に指さして、琴美に聞いている。凄く誤解を生みそうな言い回しだ。
「うーん。でもさぁ、軍人さんって、何か怖くない?」
琴美が知っている『軍人』は、祖父だけである。
「いやいや。軍人を避けていたら、カッコイイ男は、皆『対象外』になっちゃうじゃぁん!」
絵理の発言。それは言い過ぎだが、間違っているとも言い難い。
何しろ日本の周りは敵だらけ。北から南まで紛争地域なのだ。
今は『徴兵制』ではない。あくまでも『志願』が基本なのだ。が、世間の『同調圧力』は尋常ではない。
高校に行かない男子は『防人の歌』を歌いながら、すべからく陸軍へ。対馬の最前線へ派遣される。
大学に行かない男子は『海行かば』を歌いながら、すべからく海軍へ。ハワイで三カ月過ごした後、アリューシャン列島の最前線へ派遣される。
大学院に行かない男子は『空の神兵』を歌いながら、すべからく空挺団へ。習志野(本当は薬円台)で三カ月間地獄を経験した後、本当の地獄へと派遣される。
銃剣でド突き合って生き残った男は、皆『寡黙』になって帰ってくると言う。琴美の祖父もそうだった。
「空軍より海軍だよ。戦艦の方が安全だよ?」
まるで『こっちがお勧め』と言わんばかりに、絵理が言う。確かにそうなのだろう。何せ、日本海海戦の大敗北以来、帝国海軍は一隻の『轟沈』も経験していない。長門は『自沈』扱いだ。
しかし琴美は思い出す。小学生の頃の話だ。
海軍だった祖父の弟は、生きて帰っては来なかった。遺骨もないそうだ。位牌に刻まれた命日は確か、昭和二十年の四月七日。
お盆の準備中だった。それを一緒に見た祖父に『もう少しで終戦だったのにね』と言ったのだ。すると祖父は歯を食いしばり、人目もはばからず泣き出してしまった。苦い思い出だ。




