失敗と成功の狭間(二十四)
「じゃぁ、コーラで」
「はい。コーラね」
やっぱり学生さんだったか。お酒じゃないけど毎度ありっ!
「ねぇ、餃子あげるからさ、回鍋肉『フル』にしない?」
真っ先に注文を通した楓が、ニヤニヤしながら琴美に聞く。店主は思わずメモから楓の方を見て、琴美の方を見た。
「えー。上に『持ち上げる』だけじゃ、ダメだからね?」
楓を指さして琴美が苦笑いで確認する。店主は思わず吹いた。
「今度は違うからっ!」
楓の表情は『バレたかぁ』である。しかし琴美は決意したようだ。
「じゃぁ、回鍋肉はフルサイズで」
「はーい。回鍋肉はフルで。と」
「私も餃子ちょっとあげるからさ、レバニラ『フル』にしない?」
絵理の笑いながらの提案に、琴美が少々驚く。
「えー。まぁ、良いけど」
琴美は笑って店主の方を見た。店主は『本当に?』と目で確認。
「じゃぁ、レバニラもフルサイズで」
「はーい。レバニラ炒めもフルと」
今度こそ良いだろう。悪女っぽいのは二人だけだ。パーコー麺の子は、大人しそうだし。
「じゃぁ、私もさぁ」
「ちょと! 餃子はもう良いからね?」
先に宣言したのは琴美の方だ。美里の表情は変わらない。
「パーコーちょっとあげるからさ、レタス炒飯にチェンジしない?」
「良いね! そうしなよ」
直ぐに賛同したのは絵理だ。提案を受けた琴美は渋い表情である。
「そんなに食べきれないよぅ」
ですよね。店主は笑顔で小さく頷いた。どうやらレタスチャーハンは不要のようだ。
「カニたっぷり炒飯にしなよ。私達、手伝ってあげるからさっ」
「良いね! そっちにしなよ!」
「良いんだ。いや、私もね、カニの方が好きかなぁ」
何という素晴らしい提案。これが『友情』と言うものか。
そう思ったのは店主だ。提案を受けた琴美の表情は、凄く複雑だ。
「じゃぁ、ライス止めて、この『カニたっぷり炒飯』で」
「はーい。カニ炒飯。器、四つね」
「オネガイシマース」
調子良く念を押したのは楓である。
店主は張り切って厨房に戻って行った。何やら良いことがあって『打ち上げ』でもするのだろう。楽しそうではないか。
「はい。コーラと、ザーサイね」
店主がニコニコ顔で持って来たコーラは、何故か四本あった。ザーサイは大盛だ。直ぐに楓は動き出す。
まさか? という顔の琴美の手から、コーラのビンを取り上げると、コップを持たせる。
「社長、お疲れ様です」
素敵な笑顔で、驚く琴美のコップにコーラを注ぎ始めた。




