失敗と成功の狭間(二十三)
場末の町中華は、まだ客が少ない感じだ。
カウンターの向こうとこっちに客が二人。若い男だ。
一人はスマホを見ながらラーメンをすすっている。もう一人はチャーハンを見ながらスマホを食べているようだ。
どうやらスマホを片手に食事をするのが、最近のスタイルのようだ。店のテレビを観ているのは、暇そうな店主だけだ。
「こんばんわ。四人です」
「いらっしゃい。奥のテーブル席へどうぞ」
入り口の引き戸の音がして振り向いた店主が、急遽作った愛想笑いを珍しい客に振り撒く。
見れば店の雰囲気に全然合わない、若い女の子の四人組。どこで調べて来たのやら? あぁ、もしかして大学の僚の子かな?
店主はその一瞬で、ラーメン四つと餃子二つを想定。儲かる酒の販売はなさそうだ。売り上げは三千三百三十円。チーン!
冷水を四つ用意して、席へ向かう。
「いらっしゃいませ。お決まりになりましたら」
「味噌チャーシュー。餃子。絵理は?」
トップバッターは楓だ。店主は焦った。水をお盆ごと人の良さそうな手前の子に預け、メモを取り出した。
「私も餃子。あとね、天津飯」
楓の隣に座る絵理も、メニューを見ずにオーダーを入れた。
「あぁっと、こちらのお客様が味噌チャーシューに餃子」
しかし店主のメモは、間に合っていないようだ。
「かつ丼にしようかなぁ」
美里はメニューを見ているが、ぼやーっとした意見しか言わない。
「あんた、さっきかつサンド食べたでしょぉ? かつ被りじゃん!」
絵理に指摘されて口をへの字にすると、お悩みタイムに戻る。
琴美は『はーい』と言いながら、水を配っている最中だ。まだメニューにさえ到達していない。
「お客様は、餃子に天津飯ね」
「そうでーす」
その間に店主は、今までのオーダーに追い付いたようだ。まだ決まっていない二人の様子を見守っている。
「じゃぁ、私、パーコー麺で。あと餃子」
「あんたぁ! 良いの? ほぼかつ丼じゃん!」
「ここのパーコー麺、美味しいよ?」
「そうじゃなくてさぁ」
いつも一緒にいる絵理にも、美里の感性は時々判らなくなる。
店主もまだ信用していないようだ。苦笑いでメモの用意をしているだけで、止まっている。
「パーコー麺? と、餃子」
そう言って店主が笑顔で聞くと、美里は頷く。安心して店主がメモに注文を記す。さて、あと一人だ。
「琴美、遅ーい」
「ちょ、ちょっと待ってよぉ」
琴美はまだ、メニューと格闘中だ。真剣に悩んでいる琴美の様子を見て、店主は心の中で思う。『ラーメンと餃子でしょ?』と。
琴美がメニューを置いて、店主の方を向く。
「レバニラ炒めハーフと、回鍋肉ハーフ。ライス。あとザーサイ」
「お飲み物は?」
店主は大急ぎでメモを取りながら、思わず聞いてしまった。




