失敗と成功の狭間(十九)
琴美はUSBメモリを振り回しながら、自室に戻って来た。
時計を確認して頷く。直ぐにスマホを取り出して、弟の優輝にゲームのレアアイテム情報を流す。
そして、パソコンの電源をONにすると、寮の監視カメラをハックして、自室の映像を『パソコンを見ている映像』でループさせ始めた。画面は写り込んでいない。
これで『エロい動画でも凝視しているのだろう』と、勘違いさせることができる。安全策だ。
パソコンの裏から『検疫用』の自作パソコンを取り出し、CDーRにインストールした機能縮小版のOSを起動する。
電源はバッテリー駆動。ネットワーク未接続。ディスプレイで起動を確認すると、USBメモリをスロットに挿す。
「やっぱり、ヤバい奴だよぉ」
USBメモリ内のプログラムが起動し、検疫用PCの各種ドライバーをサーチしている。やがて『ネットワークドライバ』を見つけると、外部に対してアクセスを始めた。
しかしその『ネットワークドライバ』は、琴美が仕込んだ『ダミー』である。
ネットワークドライバを突っついて、何をしようとしているのかが、次々とディスプレイに表示されている。
応答は全てダミーであり、『接続に成功しました!』に騙されたプログラムが、更に報告をし始めたではないか。
琴美は以前ダウンロードしておいた『WHOIS』の一覧と、表示されたIPアドレスから持ち主を探す。
「あらあら。空軍情報部さん。こんにちわぁ」
溜息しか出ない。
すると今度は、『カメラのドライバー』を勝手に起動したプログラムが、画像を勝手に撮影し始めた。
「スッピンだったら、どうするの? うふっ」
もちろん、このドライバーも琴美の作ったダミーであり、撮影して出て来る画像もダミーである。バンバン撮ってくれたまえ。
琴美はプロセスを破棄して、プログラムを中止する。すると、プログラムが防衛処理を始めた。USBの書き込みを実行して、ファイルを全削除し、証拠を消そうとし始めたのだ。
「ごめんねぇ。このUSB、書き込み線、カットしてあんだよねぇ」
琴美は小声で溢す。こんなの渡すこと自体がアフォなのよぉ。
後でUSBメモリのダンブを取って、誰が作った物か調べさせて頂きましょう!
琴美はおもむろに、自宅のファイヤウォールに侵入して、ポート番号を指定して、こじ開ける。
PCにアクセスすると、もう優輝が起動してゲームを楽しんでいるようだ。良し良し。
ゲーミングキーボードのソフトウエアに、外部アクセス用のプログラムを仕込んである。
ランダムなパケットを撒き散らかしながら、お散歩に出発!
これから空軍情報部へ、侵入開始だ。




