失敗と成功の狭間(十六)
何を以て『おやつ』と言うべきか。それは人によりけりであろう。
高い糖度? まぁ、それは当然として。あぁ、一部例外はある。『おせんべい』とか『あられ』とか『おかき』とか。
フワフワの食感? それも重要だろう。うん。一部例外はある。もちろん『おせんべい』とか『あられ』とか『おかき』とか。
だから、楓が用意した物が『自分用のおみや』である以上、それが『おやつに最適』な『甘くてフワフワの食感』を有し、『コーヒー』にも合うとの判断は、その他大勢の勝手な解釈に過ぎないのだ。
「ちょっと、爪楊枝じゃ、全然取れないじゃない! あぁっ」
「ダメじゃん? 割り箸は? これ、どうやって食べるの?」
「私、押さえてるだけ? 長い串に刺さってるのがあるでしょ?」
絵理と美里が覗き込んで喚いている。何も見えない琴美は、缶を押さえて外から困惑するだけだ。
「あぁ、これね。結構美味いよぉ」
冷え切った缶詰から、牛串を最初に引き抜いた楓が、奪い取られた『おでん缶』を恨めしそうに眺めている。
折角『今日の夕飯』だったのに『皆のおやつ』になってしまった。
何とか爪楊枝で竹輪を摘まみ上げた絵理。今の所バランスを保っている。そのまま『ソーサー』で受け取ろうと必死だ。
金縁のソーサーが泣いているが聞く耳を持たず。お構いなし。
「それじゃーん! ちょっとよこしなさいよぉ」
爪楊枝で『コンニャク』は無理だった美里が、楓が手にしている串を見つけ、手を差し出した。
「駄目だよ。肉は私のに決まってるじゃん!」
楓に『牛串』を譲る気はないようだ。それでも、口をへの字にしてコーヒーを啜る。うん。両方美味い。
小腹の空いた女子大生にとって、例え『コーヒー』に『おでん缶』であっても、立派な『おやつ』であったようだ?
あれだ、お父さんが『パステル』の箱を見せて狂喜乱舞した娘から、「今度は『なめらかプリン』を買って来るように」と、ケーキを食べるフォークで指されながら叱られる。うん。正にそれ。
「私、ウズラの卵が良いなぁ」
美里が『コンニャク』を引きずり出した後のおでん缶。だいぶ寂しくなっているが、琴美の手元に回って来た。
覗き込んでも、見える訳がないのだが。
「探してあげるよ!」
優しい楓が、琴美からおでん缶を取り上げる。既に『串』だけになった牛串を缶に差し込むと、一発で『ウズラの卵』を突き当てた。
「ありがとう!」
琴美の礼は、楓がパクンと躊躇なく食べた行為を、凄く称賛しているようにしか見えない。絵理と美里は笑い出す。
「ひっどぉい!」「判るジャーン」「まただよぉ。学習しよっ」
当の楓はモグモグしながら『もっと礼を寄越せ』の態度である。
「良いもん。私、『万かつサンド』夕飯にあるからっ」
琴美が立ち上がりながら、悔し紛れに放った一言。
その一言が、穏やかなコーヒーブレイクを、本当にブレイクしたのは、言うまでもない。




