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失敗と成功の狭間(十五)

 今日のレポートを提出して、琴美と楓は寮に帰って来た。

 エレベータホールから『又ね』と一応言って、互いの部屋へ直接入り、反対側から共同のリビングに出て来る、いつもの動線だ。


「お帰りぃ」「お帰りぃ」「お帰りぃ」

 例によって、絵理と美里はお早いお帰り。

 それに、さっき別れたばかりの楓までが、『今日一日、ココに居ました』の雰囲気で、既に座り琴美に手を振っている。


「お土産は?」

 開口一番は楓。留守番していた者の権利の如く、だるそうに手を伸ばしている。

 いや、あんたはさっきまで、一緒に行動していたでしょうがっ!


「無いです! あらっ」

 パチンと叩いて、それがお土産だと言わんばかりだ。しかし楓もそれは読んでいて、素早く手を引っ込めた。

 琴美の右手は、今日も空を切る。


 琴美を起点とした空気の流れは、そのまま斜向かいの絵理に届く。

「私達にはぁ?」

「そうそう。約束したじゃーん?」

 絵理の発言の後に、美里も発言を並べて行く。ここまでがお約束だ。そして、美里の発言は『大体真実』なのである。

 琴美の記憶は、今日も曖昧だ。


「おみやはぁ、『パンフ』だけだなぁ。要る?」

 手ぶらの琴美は、自室の方を親指で指した。そして目で確認する。

『どうしても見たいんだったら、持って来てやっても良いけど、その間にお茶とお茶菓子の一つも出て来るんだろうな?』である。


「えぇ。良いやぁ。楓は無理だしぃ」

 絵理が諦めると、美里も諦めて席を立つ。

「だねぇ。水飲む? 楓は要らんでしょ?」

 いつものグダッとした楓に聞くが『無し』が前提のようだ。それにしても、美里は真面目で優しい性格だ。一応『飲み物を用意する気持ち』だけはあったようだ。


「あぁ。自分用の『おみや』しか、ないやぁ」

「はーい。えっ?」

 一度頷いた美里が踵を返す。しかしその瞬間、楓は絵理に掴まっていた。


「出しなさいよ! それを今すぐ出しなサイよっ!」

「ぐへぇ。ちょっと、何? 飢えてんの? アンタ達、どうせ学食でおやつ食べたんでしょ? 新メニューのぉ」

 揺すられて抵抗する楓だが、そんなのは関係ない。美里も笑顔で参戦である。

「そうよ。おみやは別腹よ。出しなさいよ! 早く食べないと、夕飯の時間になっちゃうでしょうよ!」

 もっともらしい攻め。流石、常識人枠の美里である。


「琴美! ぼやぼやしていないで、コーヒー淹れなさい! 早く!」

「あっ、はい。直ぐ淹れます」

 普段は大人しい美里に『ちょっと強い調子』で言われた琴美は、楓の味方にも敵にもなれず、ただ『後方支援』をするだけだ。

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