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失敗と成功の狭間(八)

 聞きたかったのはそれか? 琴美は今度は直ぐに答えない。

 モグモグとハンバーグを噛み砕きながら、牛肉と豚肉の配合比率を表すグラフが、左から『ブブブブゥ』右から『モモモモゥ』と、今上昇中の所だ。暫時待たれよ。


「会社の寮に住んでいたの?」

 どうやら朱美には、琴美には見えている豚さんメーターが、全く見えていないようだ。

「荻窪? それとも蒲田?」

 豚さんの比率が七割に達し、勝利宣言を出している。どうやらこれは千葉県産。いつもの味だ。

 朱美の目を見て、琴美は笑った。


「さぁ、何処でしょうねぇ」

 今は千葉都民の琴美に、山手線より向うの駅を言われても困る。

 荻窪? 八王子の手前かぁ? である。間違えてはいないだろう。

 蒲田なんてもっと酷い。横浜市民から『川崎の向こうです』と言われたら、そのまま信じてしまうだろう。


「ねぇ? なかなか『情報』出さないでしょう?」

「そうねぇ。何か言ってくれれば判るのにねぇ」

 朱美と楓が、顔を見合わせて困り顔をしている。

 琴美は意外な顔をして、楓の方を見た。どうやら楓にも『豚さんメーター』が、見えていなかったようだ。


「ハンバーグ美味しいから、肉団子も美味しいかもよ?」

「肉団子は鳥だべ?」

 なるほど、楓に見えていたのは、鳥さんメーターだったようだ。


 琴美はとりあえず昼食を勧める。楓も鳥団子にパクつき始めた。寮の自炊はいつも酷いものだ。それは自覚している。

 だから『ハンバーグ定食』なんて、人として『素敵な食事』を頂いている最中は、余計な情報は要らない。


 しかし朱美は、手元のマフィンを見つめるだけで、食事に入る様子はない。

 全部同じに見えるが、味が違うのだろうか。どれから食べるか迷っているようにも見える。

 しかし、食堂のメニューに『マフィン』があったかなんて、記憶にない。どうやら見逃してしまったようだ。


 その内の一つに手を伸ばす。琴美が『やっと食べるのか』と、思ったその矢先だった。


「ハッカーの『コトコト』って、知ってる?」


 だからハンバーグを味わっている最中に、質問を被せるんじゃない。被せて良いのはドビソースだけだ。

 だから琴美は目で『知らない』と回答する。

 すると楓が笑い出した。どうやら琴美が『必死に否定する様子』が、非常に面白かったらしい。

 朱美はそんな楓を見て、目で『こらこら。そんなに笑うものじゃあーりませんよ? お友達、失くしまーすよー』と言っているではないか。

 朱美は楓の方から琴美の方に振り返った。


「そっかぁ。名前聞いて、絶対そうだと思ったのになぁ」

 そう言いながらも、目ではちゃんと『否定は伝わったよ』を伝えるのは忘れない。そして、注意深く琴美を見ている。


「じゃぁ、『イーグル』って名前ハンドルネームに聞き覚えは?」


 琴美は首を傾げながら『昔のオリンピックのマスコットかなぁ? 懐かしいなぁ』と目で訴える。

 もちろん『私はその時、生まれてませんよぉ』は忘れない。


 今度は朱美にも『イーグルサム』は見えたらしい。直ぐに頷いた。


「そっかぁ。知らないかぁ。絶対知ってると、思ったのになぁ」


 そう言いながら前のめりになり、琴美の顔に自分の顔を近付ける。

 そのままにっこりと笑って、首をちょっと横にした。


 近付かれた琴美の頭の中は、大量の豚さんが走り回っている。どこまでも、どこまでも。

 まるでゴールは、ハンバーグ工場のようだ。

 楓の方を見ても、のんびり鳥さんを食している姿にしか見えないではないか。

 私は豚さんじゃない! 琴美の中の何かが叫んだ時だった。


「じゃぁデザートに、マフィン食べよ?」


 朱美が自分のトレイを前に出した。琴美と楓は顔を合わせて止まった。しかしそれは、一瞬だった。

 急に二人は自分の昼食をガツガツと食べ始める。

 朱美はそこに何を見たのか。それは、言わないで置こう。

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